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「私たちは忘れ去られていない」―シリアとヨルダンの人々が共に歩む

「私たちは忘れ去られていない」―シリアとヨルダンの人々が共に歩む

2018.06.25

現在60万人を越えるシリア難民がヨルダン・ハシミテ王国に流入し、緊張が高まっています。バディア地方北部・中部における国連工業開発機関(UNIDO)のプロジェクトは、難民と受け入れ先のコミュニティを融和させることによって経済的・社会的圧力を緩和する機能を果たしています。

ダニエル・チャン
2018年6月1日

ヨルダンは内戦から逃れた490万人以上のシリア難民の主要な目的地となっています。同国は現在60万人以上のシリア難民を受け入れており、それは内戦前の人口の10%以上に相当します。過去5年にわたり、農業部門における雇用機会の競争は激しくなっています。シリア難民が労働許可の無いままで、国が定める最低賃金よりはるかに低い賃金で非公式に仕事についています。

「特に物資が不足している地域において、難民の大量の流入が地域経済に多大な影響を及ぼしています。」と、UNIDOプロジェクトマネージャーの高橋典子は語ります。受け入れ地域では生活必需品やその他商品、サービスの価格が高騰しています。「シリアから到着した家族だけでなく、彼らを受け入れる地域社会とも協力し合うことが重要です。」と高橋は付け加えました。

今回のUNIDOのプロジェクトは日本政府による資金提供を受けて10の地域で実施されているものの一つで、かつてヨルダンの穀倉地帯と言われた地域の潜在的な農業生産力を引き出すことによって、食糧不足の解消に取り組んでいます。

アズラク女性協働組合

サムヤ・アバスさん(41)はシリア難民危機を身をもって体験しました。彼女が生まれ育ったヨルダン中東部の小さな町アズラクは、今では約2万人のシリア難民の生活拠点となっています。

 

アバスさんが代表を務めるアズラク女性協同組合は、同地域における雇用創出と食料確保のためにUNIDOと連携しています。組合では、薬用ハーブと野菜栽培にターゲットを絞って、収量を増やす方法、農産品を加工技術、そして農家への販売支援に関する研修を受けています。

「現在、セージ・豆類・玉ねぎとニンニクを育てています。全ての植物に薬効があります。ザクロから抽出されるエキスも生産しています。これは血液の弱点を補い、水に溶かして飲むことで風邪を予防する効果があるのです。私たちの目標は大地の恵みを享受し、消費者のために化学肥料を使わない自然食品を最高の品質で生産することです。」

「研修の1日目にシリアの人々が到着し、2日目には私たちは家族のようになりました。」

「これは先駆的なプロジェクトであり、雇用機会を増やして地域住民とシリア人の両方を助けています。」とアバスさんは強調しました。

彼女はこれまでも地域社会に農業プロジェクトを導入した経験があります。しかし、シリア難民をヨルダン人の研修生と一緒に研修に受け入れ、地元住民と難民の双方のニーズが考慮されたのは今回が初めてだと言います。「UNIDOと一緒に仕事をする以前のプロジェクトでは、私はいつも2、3人のシリア人をこっそり紛れ込ませていたものでした。今では最初から彼らも含まれています。とても喜んでいます。」

アバスさんは、シリア人と一緒に働くことで地域全体の結束が強まってきたと言います。「研修の1日目にシリアの人々が到着し、2日目には私たちは家族のようになりました。私たちは休憩中はいつでも一緒に食事をしたりコーヒーや紅茶を飲んでいます。皆で食べ物を家から持ち寄っては、一緒に座って食事をしています。」

女性のエンパワーメント

2016年以来、500人以上がこの研修プログラムを受講し、その60%は女性でした。サルワ・スエリマンさんもその一人です。彼女はシリア出身の45歳であり、2013年に難民としてヨルダンに到着しました。スエリマンさんと夫のムハンマドさんには9人の子供がおり、ヨルダン東部のバディアにあるテントで生活しています。

スエリマンさんはUNIDOプロジェクトの研修生でした。研修中に女性が積極的な役割を担うように促されたことによって、地域における女性の社会参加が大きく進んだのを実感しました。

「プロジェクトの講義やミーティングを通して、女性が分離から解放され男性と一緒に研修に参加することができるようになりました。」とスエリマンさんは言います。「それによって男女の緊張関係が解け、今では女性たちは男性と並んで一緒に働いています。」

スエリマンさんとアバスさんはシリア危機に異なる立場で直面していますが、このプロジェクトに対して同じ想いを持っています。スエリマンさんは「人生の困難や悲劇に直面したことを忘れさせてくれます。」と言い、アバスさんは「経済支援以上のものを与えてくれます。それは感情面での支えです。私たちは忘れ去られていないと感じます。」と力強く語りました。