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第70回

第70回

 今回は珍しく、真面目な話を書きます。1月6日の米国連邦議会への「暴徒」の乱入とそれに伴う米国の民主主義への(世界からの)信頼失墜です。私は国連職員ですから、政治に関する言動を行うことは大きな制約を受けます。特に、開発途上国では国連職員がその国の政治に関する何等かの発言を行うことは、当該国の民主主義に一定の影響(バイアス)を与えることになりかねませんので、極めて慎重な言動が求められている訳です。

 今回の「暴徒」の乱入と狼藉の一部始終は、メディアでも報道されていますので私が繰り返すまでもないのですが、①選挙で「敗北」した現職の大統領がホワイトハウス前での集会で気勢を上げ、②それに影響を受けた(?)と見られる「暴徒」が連邦議会議事堂に大挙して押し寄せ、➂何故だか議事堂の扉が開けられて暴徒が多数乱入し、④その狼藉ぶりに審議中の上院・下院議員が皆、緊急避難を余儀なくされ、⑤遂には複数の死者まで出たという事態が、世界で最も大きな経済力と影響力を有する筈の国で発生した、というのが信じられません。

 かつて、第二次世界大戦終戦後、米国占領下の日本でマッカーサーGHQ司令官が、「科学、美術、宗教、文化等の発展の上から見て、アングロサクソン民族が45歳の壮年に達しているとすれば、・・・・日本人は未だ生徒の段階で、12歳の少年である」という趣旨の発言をした、というのは有名な話です。この発言そのものについても、また、民主主義の真価をどこまで深く日本が体現しているかという点についても、色々な議論があり得ると思われますが、それにしても「民衆の代表が議論している場に乱入して狼藉の限りを尽くす」という事態を、日本では見た記憶がありません。米国は、国連の提唱者の一つであり、当然、世界に欠かせないパートナーです。加えて、模範的な民主主義の体現者・実践者であった筈です。「暴徒」は親愛なるアメリカ国民のごく例外的な一部に過ぎないと思っていますが、「45歳」の米国は一体どうなってしまったのだろう、という思いを禁じ得ません。

 既に「憲法修正25条に基づく大統領の職務停止」や「弾劾訴追手続き」等の議論も進みつつあるようですが、かつてのウォーターゲート事件を記憶している立場からは、「弾劾って、もっと(良くも悪くも)重厚なものではなかったんだっけ?」と思えるし、そもそも「選挙で敗北した(大統領選挙の投票システムについて様々な議論があるのは、ここでは置いておくとして)大統領が、レームダック(影響力を失った政治家)にならずに、もしかしたら任期の最後の一週間に、世界の安定や秩序に重大な危機を惹起する行動をとる(具体的には敢えて書きませんが・・・)可能性さえ囁かれている」というのは、国連の立場から見ても大きな懸念材料です。

 これまで、数々の米国大統領選の後、敗れた側が勝者を讃えて大統領の地位を譲るという光景を「成熟した民主主義の一つの証」として見てきた自分からすれば、「今回の事態は世界に波及するかも知れない。そうなると世界の民主主義も(悪い方向に)変質していく可能性があるのではないか?」と懸念せずにはいられません。私としては、開発途上国や新興国での経済開発に微力を尽くすことによってこの懸念を僅かなりとも払拭していきたい、と自覚した次第です。

(注)本稿はあくまで安永所長個人の考えであり、UNIDOや国連の公式見解ではありません。