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第59回

第59回

 急に肌寒くなってきました。もう暫くしたら紅葉の季節ですが、今年は例年とは違い、外出にも気を付ける必要があります。とは言え、現物にはリモートでは感じられないリアリティがあります。そこで今回は「現場で見えるもの」の話です。

 仕事のやり方の一つに「現場主義」があります。一言で現場主義と言っても、色々な流儀があります。不肖私にも35年間のビジネスマン生活で培ってきた私流の「現場主義」があります。

 例えば、当事務所がエネルギー/環境/アグリビジネス/公衆衛生の4分野の日本の技術情報を開発途上国向けに発信している STePPSustainable Technology Promotion Platform)の登録審査プロセスでもそうです。3年前の時点の登録技術が46件、現在が114件ですが、単に登録数を増やすだけなら、もっと可能です。しかしながら、各企業から技術情報と会社情報を提出いただき、当事務所内の登録審査委員会では、専門家を含め様々な手段でそれらのデータを精査します。そして、必ず申請された会社の工場、研究所、あるいは技術のユーザーのもとへ赴き、実地に担当者2名が訪問します。書面の審査も、特許の明細書を全部読み込んだり、企業の経理資料や活動状況について調べたり、ということで時間がかかりますが、企業訪問では、現地に伺ってオペレーションを見せて頂く訳ですから、当然守秘義務もかかりますし、何といっても往復の旅費と時間をかけて行くのですから、そこでの見聞というものがSTePP登録には大きな判断ファクターになります。

 工場や研究所を見れば、技術そのものに加え、どういう風に仕事を進めておられるかが分かります。STePPに登録されても、補助金等がただちに出てくる訳でもないし、当方のHPに掲載された途端に途上国からの問い合わせが殺到する訳でもありません(残念ながら)。しかしながら、我々としては、途上国のまだ見ぬユーザーに対して確信を持って「これらの技術で皆さんの課題を解決しませんか」と呼びかけるためには、「自分の目で見る」ことの重要性はいくら強調してもし切れないくらいだと考えています。

 かつて都市ガスの保安の仕事をしていた頃、ある会社のガス湯沸かし器が改造容易な構造となっていたことから、安全装置がバイパスされて様々な人身事故が発生するという不幸な出来事がありました。私は、それらの一連の事故が問題となり、前任者がメーカーによる回収等の対応策を講じた後に責任者として着任したのですが、都市ガス事業者が顧客のガス器具の点検等の戸別訪問・巡回をやると、やはり次から次に物件が発見される。次に事故が起きると私の責任です。これは何かおかしいと思い、ガス事業者の保安担当者と課員数人で、土日に出勤してガス会社の巡回帳簿をチェックし、原因を見つけました。何と、顧客があまりに多すぎるため、事業者は巡回担当者が手書きで帳簿に記入したガス器具の型番(注:型番を記録する法的義務はありませんでしたが)をスキャナーで読み込んで管理していたところ、P9B81I等と誤認識して記録されていたものがかなりあったんですね。丸二日間、仲間とダラダラ汗を流しながら数万件をチェックし、誤認識のパターンを抽出して、ガス事業者に対して注意喚起と再点検の要請をして何とか対応を済ませることができました。この時ほど「ああ、現場・現物には必ず何かがあるよなあ」と痛感したことはありません。