このページをシェアする

第42回

第42回

 今回は、本の話です。緊急事態宣言が発出されている間、SNSで様々な人たちが「自分に影響を与えた本10冊」というような情報発信を盛んにされていましたね。私は、こういうものをネット上で他人様にご披露するのはちょっとどうも・・・と思っていたのですが、皆さんのお考えの原点や背景が分かるようなものも多く、また、殆どの場合、これが私の読んだこともない本だったりして、実に興味深いのですね。ですから、今回この場での話題に取り上げて、私の事例をご紹介してみたいと思います。いや、誠に恥ずかしながら。

 小学生時代、そして大人になってからも、私と「最も長い間の付き合い」になった本は、ノルウェーの人類学者トール・ヘイエルダールの『コン・ティキ号探検記』です。最初に読んだのは学校の図書館で借りてからだったと記憶しています。何と言っても「南太平洋イースター島の巨石文明は南米から筏で渡った人たちが作った」という壮大な仮説を、実際に筏を作って航海することで証明する、という発想が痛快です。今日では、人類学的には、ヘイエルダールの仮説に対して否定的な見方が優勢な様子ですし、そもそもこの人、この航海の反響に味をしめて(?)次には古代エジプトの葦船で大西洋を渡る、といった冒険に乗り出しており、学者というよりは冒険家、という方が適切かも知れません。 

 小学生時代には、モーリス・ルブランの「怪盗アルセーヌ・ルパン」シリーズや江戸川乱歩の「怪人二十面相」を夢中になって読みまくっていたのですが、まあ今考えると、人生に影響を与えた、ということはさすがに言えないな、と。どちらも泥棒の話ですから。となると、次が高校時代に読んだ、九鬼周三の『「いき」の構造』であるのは間違いないところです。特にこの本の中の「六面体」の図(岩波文庫の同著のカバーにも印刷されています!)が私のお気に入りです。「いき」という抽象的・美学的概念を「立体構造」で表現する、というのが理系の私にとっても凄くアピールした訳ですね。これを読んだのは高2の頃かな? 社会人になってからは調子に乗って「九鬼周三全集」まで買ってしまいました。 

 3冊目は、以前ここでも書きましたが、村松具視の『私、プロレスの味方です』です。それまで「プロレス? あれ八百長だろ?」という心無い「良識」の前に「日陰者」として扱われていたプロレスファンが「プロレス者」という肩書を得、プロレスについて白昼堂々と語る、という世界でも稀な日本独自の文化を作る嚆矢となった名著です。尤も、この本をきっかけにアントニオ猪木が「過激なプロレス」という自己に都合のいいスローガンを得る一方で、ジャイアント馬場が「プロレス内プロレス」と揶揄され、ひいては「真剣勝負」を標榜するが決して真剣勝負では無かったUWFとか、本当に真剣勝負したらプロレスラーも敵わない強い(恐ろしい)格闘家が世界には沢山いること、そしてそういう真剣勝負は「見ていてナニが決まったのかも判らず、決して面白くはない」ことが明らかになってしまったこと等、プロレスの虚実の構造が暴かれるきっかけを作ってしまった歴史的怪著であります。

 まだ7冊ありますが、また次回ご紹介しましょう(よほど不評でなければ・・・)。