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第135回

第135回

 今週後半からいよいよゴールデンウィークですが、COVID-19のワクチン接種を3回済まされた方も増え、3年ぶりの行楽にお出かけになられる方も増えているようですね。

しかし、GWを目前にして、北海道・知床半島沖のオホーツク海で観光船が遭難するという悲しい事故が発生しました。27日午前の段階ではまだ15の方々が行方不明ですし地域の漁船や同業の観光船が協力して捜索に当たっておられるので、今はその行方を見守るのみですが、楽しくあるべき観光地でのこうした事故はやり切れません。

 

 まだ国土交通省による原因究明が終わった訳でもないので、軽々には申し上げられませんが、ネットを見ると、遭難した観光船の舳先の部分の亀裂の写真だとか、昨年、操船に習熟した乗組員を解雇し、技能的に未熟なスタッフが多かった、等の情報も出ています。また、現地では、当時、強風・波浪注意報が出ていたとも言われ、同業者からも「必ず海が荒れるから出航するな」という忠告があったという話も出ています。運航会社が「安全サイド」で行動していれば防げた事故であることは間違いないものと思われます。

 

 保安や安全確保というのは、特に営利企業にとっては、少なくとも短期的には「コスト」です。が、安全が確保されていない状況では、一般のユーザーはそうした事業や装置に対して忌避感を持ちますから、長期的には、そうした事業や装置への信頼を醸成する、という意味で大きな「ベネフィット」となります。問題は、そうしたベネフィットは、事故が起きて初めて「ベネフィット」であったと認識される場合も多く、不見識な企業は往々にして安全確保のための投資を軽視しがちである、ということです。

 

 私は、これまでのサラリーマン人生の中で、一度(2年間)だけ、都市ガスの保安の仕事をやっていた経験があります。現在の法体系は少し異なっていますが、当時の都市ガス事業は、誰もが自由に参入できる訳ではない規制業種で、あれやこれやルールを法律で定めている代わりに、地域独占が認められていました(現在の法体系では、巨大なインフラを要する「導管」部門のみが地域独占を認められ、上流の「製造」部門と下流の「小売り」部門は自由化されています)。

 

 これの背景には、「都市ガス会社は、地域独占という大きな経済上・経営上のベネフィットを享受する代わりに、需要家への安定供給義務や、様々な安全確保対策を講じる義務を負う」という考え方があります。皆さんのご家庭にも時々ガス事業者の保安巡回の人がやってくるでしょう? 彼らは、皆さんのご家庭のガスの安全を気にする責任を負っているのです。そういう時には快く(ウチが散らかっていても)ガス機器の設置状況や運転具合を見て貰って下さい。こうした安全法制と安全文化の徹底のおかげか、日本の都市ガス需要家数が3000万件超の中で、消費段階での死亡事故は年間0.2人(=5年に一人)程度だそうです。

 

 観光船は地域独占ではないでしょうが、公的な安全規制はありますし、事業者サイドでの取組みも行われている筈です。日本の魅力の一つがインフラ、産業、サービス部門での安全性・信頼性にあることを思えば、今回の海難事故は残念でなりません。安全への投資は、長期的な繁栄の基礎だということを再認識したいものです。

 

バックナンバーはこちらから http://www.unido.or.jp/publications/shocho/