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第126回

第126回

 世の中は日進月歩です。数年間のうちに、過去聞いたことのない新技術が一般に知られることもよくあります。その中で、私がよくまだ理解できないでいる一つについて言及したいと思います。私だけが無知蒙昧の輩なのかもしれません。どなたか詳しい方はご教示下さい。その技術とは、DACDirect Air Capture)と呼ばれるもので、空気中に薄く広がっている二酸化炭素を集めてしまおうというもので、ここ数年、急速に研究開発や一部実証が行われているものです。

 これは、いわゆるCCSCarbon Capture and Storage)とは似て非なるものです。CCSは、石炭火力発電所や製油所、高炉、化学工場等のCO2排出源の排気からCO2分を直接吸着し、地中深く埋めてしまうというものです。私が2年前に調べた際には、世界で既に18ヵ所で実用化がなされていましたが、その殆どは、老朽化した油田の増進回収(EOR: Enhanced Oil Recovery。油田は若く、元気な間は『自噴』と言って油層がその直上のガス層の圧力を受けて地上に噴き上がってくるものですが、次第に圧力が低下し、自噴しなくなります。それを地上から気体を封入して圧力を上げて石油の回収率を上げるのにCO2が用いられる、という訳です)によって得られる石油収量の増加によって経済性を成り立たせていました。

 CCSの場合は、CO2排出源のいわば煙突の先っちょからCO2を回収するので、少なくとも回収効率を上げることができます。排気の種類にも拠りますが、廃棄中のCO2濃度は数十%でしょう。ところが、大気中に薄く散らばったCO2の濃度は約400ppm0.04%)です。CO2を吸着するには、アミンというアルカリ性の物質を用いた一種のフィルターを使うのが一般的と考えられますが、この反応自体は大昔から知られているものです。

 空気中のCO2を集めてくるには、当然、エネルギーが要ります。そのエネルギーには太陽光や地熱等の再生可能エネルギーを用いれば良いのでしょうが、果たして400ppmという薄~い濃度のものをせっせと集めてきて吸着するやり方がエネルギー収支を見た時に本当に効率的なプロセスとなるかどうかは疑問が大きいし、また、回収したCO2は再び空気中に戻らないように何等かの形で固定しなければなりません。スイス企業がアイスランドで実用化したプロセスは、CO2を地下に送り自然の鉱化作用で炭酸塩(CaCO3)に変換するそうですが、何となく「大規模に(=地球温暖化対策として有意な規模で)展開するにはコストが掛かり過ぎるんじゃないの?」と思ってしまいます。

 以前にも書いたと思いますが、エネルギー関連技術は「スケールアップが現実に可能か?」「コストが現実社会において許容される水準か?」という点が最重要です。実験室の机の上でできる「革新技術」は今でも山ほどありますが、このスケールアップとコストダウンの壁を殆どの選択肢が乗り越えられません。そこを何とかするのが技術の力だろうと私も思いますし、カナダ、スイス、オランダ、フィンランド、アメリカ等では既に相当数のスタートアップ企業が開発と実証を行っています。日本の企業や大学・研究機関も頑張って世界が驚愕するような成果を挙げて欲しいのですが、CO2吸収量の多い木を植えたりする方が確実ですぐ取り組めるんではないかなあ、等と考える自分は技術屋失格でしょうか。