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第125回

第125回

 人生には、往々にして「あっ、実はこんな基本的なことも俺、知らないんだ」ということがあります。最近もこんなことに気づきました。

 私は戦国時代の歴史が好きで、信長・秀吉は言うに及ばず、色々な戦国武将に関する本を読んできましたが、この時代の物価とか、足軽を始めとする兵士の給与というものについての具体的な知識が何もないことに思い当たりました。

 そこで川戸貴史著『戦国大名の経済学』(講談社現代新書)という本を読んでみたところ、これが大変面白いんですね。例を幾つか挙げますと、まず信長の安土城の築城に幾らかかったか? この本に拠れば、「設計や建築の指揮を執る大工などの技術者には日雇いの形式で報酬が支払われていたと考えられる」そうで、一日当たり一両(銭二貫文程度=現在の価値では1214万円)とすると、50人の技術者を一年間継続雇用するとした場合、総額で36000貫文、これは現在価値で234000万円相当にあたる、ということです。また、末端の労働者は労役で無報酬だったようですが、さすがに食事は支給せねばならないので、一人一日6合とすると(これは多いですね!)一日平均1万人が働くとして一日60石、米一石が平均銭500文とすると、一日の費用が約200万円、年間で67億円ということですね。勿論、木材、石材、調度、美術品(屏風等)にもとんでもない額がかけられたでしょうから、総経費は100億円近くに達したのではないか、ということです。

 戦国時代に土木工事とならんでおカネがかかるのは、当然、合戦でしょう。槍、刀、鎧といった武具(装備品)から、馬、人件費、食料費など。鉄砲は国産化された後のコストは推測するしかないそうですが、一挺当たり5060万円と見るのが妥当だとか。結局、兵士一人当たりの装備で20貫文(鉄砲を加えた場合)、つまり現在価値で130万円程度とか。弾薬等も含めれば相当の費用になります。経済力がなければ合戦はできず、確かに信長・秀吉がなぜ天下人になれたか、という議論にも通じます。

 戦国時代ならではのエピソードが、捕虜の身代金です。身請けして解放されるには、1070万円の費用が必要だったとか。捕虜になるのは、だいたい女性、子供、老人でしょうから、身内がこれだけの費用を出してくれないと、自由の身にはなれず奴隷・使用人として使われたということですね。戦国の世とは言え、庶民には厳しい仕打ちです。

 さてこうやって見てくると、「ゼニやゼニ、ゼニの世界や~」という声が聞こえてきそうです。戦国時代に勢力を拡大していくには、統率力、軍事力、組織力、情報収集力、判断力、等に加え、経済力が欠かせない。勿論、生まれた環境、運、タイミングというものも大きく影響したでしょうが、そうした種々の能力が「経済力」と合わさった時に初めて大きな力となって結果を左右するとなれば、おのずと殖産興業を始めとする経済競争も厳しくなるでしょう。そういう視点で戦国武将の経済活動にもっぱら光を当ててみると、また面白い結果が出るのではないかと思われます。名将即ち大経営者、なのか、あるいは名将必ずしも良きビジネスマンたり得ず、なのか、はたまた名将には良きビジネス・パートナーがいる、のか。