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第118回

第118回

 あっという間に年末ですね。今年、自分は何を成し遂げたのか、と自問するとなかなか厳しいものがありますが、これが凡人の悲しさというものでしょうね。我々の仕事にも、いわゆるKPIKey Performance Indicator)というものがあり、これは様々な仕事の達成度を一定の透明性と客観性を以て説明するには勿論不可欠ですが、質的な観点を加味しようとすると、そこにはやはり数値で表現しがたい要素も残ります。

 今回は最近読んだ(買ったのは相当前ですが)本で印象に残ったものをご紹介します。

 このところのオミクロン株について、報道等から感じるのは「英国等ではもの凄い勢いで感染者が増えている」「少なくとも死者はまだ僅か」というところで、同時に「日本は今のところ水際対策の効果で、感染者の入国も少ない」「感染力は強いけれど、重篤な事態に至るケースは少なそうだな?」というところですが、実はまだ分かっていることはホンの少しなのだろうと思います。この秋のデルタ株の急速な収束の原因も分かりません。収まったのはいいけれど、それが何故なのかが明らかにならないと、次に何が起こるか分からないという気味悪さが払拭できません。

 やはり、社会の様々な現象をきちんと科学的根拠を以て理解することは重要です。霞が関の大先輩でもある政策研究大学院大学の有本建男先生他が執筆された『科学的助言 21世紀の科学技術と政策形成』(東京大学出版会発行)を読むと、政策決定に係る「科学的助言」の持つ意味や、科学的助言の原則等というものが分かりやすく解説されるとともに、科学的助言が大きな意義を持つ事例として、食品安全、医薬品審査、地震予知、地球温暖化等の事案が挙げられています(勿論、原発の安全性等についても)。

 私のオフィスでも、開発途上国への技術移転等に関して、まさに技術的観点からの審査を行うことや、そうした技術の途上国での社会課題解決に与えるインパクトを評価すること等の業務が発生します。実は、これは簡単ではないんですね。そもそも「技術的観点からの審査」を行うには種々のデータが必要ですが、それらは常に量的にも質的にも完璧ではあり得ません。そういう時に最後に頼りにするのが、「専門家の考え」です。そう考えると、頼む我々も、頼まれる専門家の先生も責任は重大です。

 もう1冊は、『吉川弘之対談集 科学と社会の対話 研究最前線で活躍する8人と考える』(丸善刊)という本です。吉川先生とは学会等でも度々お顔を合わせる機会があるので読んでみると、ここでは「科学を人々に伝える」ことの難しさを第一線の研究者と吉川先生がお話ししておられ、凄く勉強になります。一番印象に残ったのが、理研でiPS細胞の臨床応用(網膜再生)の研究を進めておられる高橋政代先生の、ある研究会における「基礎研究の重要性は、応用研究で実用化されて初めて社会に理解される」という発言です。先生は、基礎研究を重視せよという科学者側の発言(それ自体は全く正しいと私も思いますが)に対して、「真の応用研究も尊重しなければいけない」と発言されたのに、吉川先生以外の参加者からは理解されなかった、という話でした。医学の研究者は医者ですから、「人の命を救う」ことと研究の結びつきをより真剣に考えておられるのだろうと思いますが、いずれにせよ、科学技術が世の中に大きな影響(良いことも悪いことも)を与える現代では科学技術と政策や世論との関係構築は重要だが難しいものだなと実感した次第です。