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第113回

第113回

 秋は学術の季節でもあります。日頃学術とはあまり縁のない生活をしている私ですが、10月の週末は各種学会の年次大会が多く開催されていました。学会は、学術的な共通の関心を持つ関係者が集う場ですが、そこでの人脈形成というものはフィジカルな場(時として会場近くの居酒屋)での交流によって深まり、広がります。そういう意味では、オンラインは便利な一方で、人的ネットワークの拡大への効果には限界がありますね。

 学会発表というものを最初に経験したのは大学4年生の頃でした。私の当時の研究分野は「粉体工学」と言って、要は「粉もん」を扱う学問です。粉というのは、食品、化学、セメント、鉱山開発等の現場で必ず出てくる物体ですが、そのハンドリングは結構厄介なものです。私が当時取り組んでいたのは、「粉というものは、パイプに入れると詰まる。では、水の中でパイプに入れるとどうなるか?」という恐ろしく原始的なテーマでした。粉の粒度(大きさ)や管の内径や、おそらく材質(摩擦)にも拠るのですが、水の中だと管璧抵抗が少なくなって、粉は詰まりにくくなるのです。今の学生に言うと鼻で笑われそうですが、粉まみれになりながらこの原始的な実験をやったおかげで卒論が書けたのですから、粉体工学に足を向けて寝るとバチが当たります。

 余談ですが、社会人生活36年近くの中で「粉体工学」を専門にしている人には1人しかお会いしたことがありません。私が国連職員になる前に勤めていた産総研の上司である中鉢良治前・理事長です。彼はソニー出身ですが、社内の研究所勤務の時代、カセットテープの高度化のために様々な磁性粉を扱っておられたとか。

 まあ、最初の学会発表から38年くらいの時間が経過し、色々な学会に色々な形で参加させていただきました。15年くらい前、経済産業省の研究開発課長というのをやっていた時代には日本応用物理学会にも呼ばれ、お題が「男女共同参画を始めとする研究コミュニティにおける多様性」だったのでネタに窮し、仕方がないので「猪木の異種格闘技戦」の話をして、異分野融合は大事だ、しかしトップ同士(例:猪木vsルスカ)がやらないと新しいものは生まれない、一方で、噛み合わずに凡戦が生まれる可能性を恐れてはいけない、そこからも新しいものが生まれてくる(例:猪木vsアリ)ことがある、というような漫談をやりました。冒頭、最前列の実行委員の女性研究者から物凄い形相で睨まれましたが、異種格闘技戦が格闘界でいかに新しい地平を開いたかを必死に喋りつつ、バイオインフォマティクス、オプトエレクトロニクス、MEMSMicro Electro-Mechanical System)、メカトロニクス、といった物理屋にも親しい事例を紹介したら、そのうち「プッ」と吹き出され、ようやく安堵したことを覚えています。

 最後に宣伝ではありませんが、私の現時点における最新の「真面目」な研究論文を紹介します。昨年9月にIEEEという学会に採択された “Why and How ITRS Worked to Recover the Breakdown of “Scaling Law” in 2000s – Structural Frame Analysis of Si-CMOS Semi-conductor Technologies”です。ITRSという有名な技術ロードマップが、特に2000年代、半導体製造プロセス技術の高度化にどう貢献したのか、あるいはしなかったのか、を重箱の隅をつつきながら分析したもので、決して面白くはありません。ご興味があればどうぞ。