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第108回

第108回

 10月第一週は、ノーベル賞の発表があります。以前、産総研に勤めていた頃は、一応、この時期になると、「誰がどこに待機する。●●さんが受賞したら記者会見はここ、△△大学の◇◇先生との共同受賞だったら、△△大学で記者会見。広報チームはそちらに押しかける。理事長コメントはこれ」等という打ち合わせをやっていましたが、大体夕方6時半を過ぎると、「さあ、今年も無かったから酒でも呑みに行くか」となっていたものです。

 今年、米国プリンストン大学の真鍋淑郎博士が気候変動に関する物理モデルの研究によって物理学賞を受賞されたのは誠に素晴らしいと思いますが、ノーベル物理学賞が、概ね宇宙物理、素粒子、物性物理というローテーションでその対象を決めている、というのを良く聞いていた半可通としては、この受賞対象がいわゆる「気象科学」であったのにも少しばかり驚きました。

 ノーベル賞公式サイトのプレスリリースを見ると、真鍋博士と共同受賞者お二人の功績が簡潔に記されています。それに依りますと、真鍋博士は「複雑な物理システムの理解に関する画期的な貢献」が評価されての受賞だと分かります。具体的には、「大気中の二酸化炭素濃度の上昇と地球表面の温度の上昇の関係を示すとともに、地球気象の物理モデルを開発し、放射バランス(地球に入る熱と出る熱の)と大気塊の垂直方向の移動の相互作用の関係を明らかにした最初の研究者」だということで、真鍋博士の研究が現在の気候モデルの基礎となっているのだそうです。

 早速、岸田総理大臣からの祝福コメントも出ていますし、気候モデルの直接のユーザーであると思われる気象庁長官からもお祝いのメッセージが寄せられています。私達の目下の大きな関心事である気候変動の解析をNOAA在籍時代に1950年代末からやっておられた、ということに感銘を受けます。今から60年以上も前のことですし、地球温暖化について世間が騒ぎ始めるよりも更に30年も前のことです。

 真鍋博士が90歳にして米国の超一流大学の現役研究者である点にも驚いてしまう訳ですが、彼が朝日新聞のインタビューに対して答えた内容も、大変気になります。曰く、「若い人に言いたいことは、コンピュータに振り回されるな、と。ポピュラーな、はやっている研究に走らずに。自分の本当の好奇心ですね」と。また、「最近の日本の研究は、以前に比べて好奇心を持って研究することが少なくなっているように思います」とも。好奇心に基づく研究を、英語ではcuriosity-driven research といいます。勿論、その好奇心の中にも、純粋な「なぜなんだろう」という疑問から、「これは世の中にどういうインパクトをもたらすのか?」、更には「人類はこれをどうすればいいのか?」まで色々な考えが詰まっているのだと思いますが、いずれにせよ、「流行りモンに惑わされるな」というのは、他のノーベル賞受賞者を含め、至る所で語られるエピソードです。

 気候のような “chaotic and apparently random phenomena(ノーベル賞HPの記述) を対象とした研究を、しかも日本ではなく、ほぼ一貫して米国で続けられた、という背景についても更に知りたいと思いますが、いずれにせよ、独創性というものが日本では伸びにくいものであるなら大問題です。そうではない筈だと信じてはいますが・・・。