このページをシェアする

第95回

第95回

 72日の日経新聞(朝刊17面)に、「米アマゾン・ドット・コムが『分割』を回避するため、米独禁当局に対し先手を打った」という記事が出ていました。今回は独禁法と経済活動の話です。

 ご存じのとおり、市場において、1社あるいは少数の企業のみが市場を占有していると、競争原理が働かなくなり、消費者の利益を阻害します。不当な密約等による独占の弊害を防止するのが独占禁止法ですが、ここ数年、経済活動全般において、いわゆるプラットフォーマーと呼ばれる巨大IT企業の影響力が非常に大きくなってきているのを、独禁政策の観点から規制すべきではないか、といった議論が活発化してきています。

 私は独禁政策の専門家でも何でもなく、本件については、世界における議論を注視していくしかないのですが、ここでも過去の事例は大いに参考になります。

 最も有名な事例が、20世紀初頭に米国においてSherman Anti-trust Act(シャーマン反トラスト法)に基づいて連邦最高裁からStandard Oil社の解体命令が出された件でしょう。これは経済学の教科書にもほぼ必ず掲載されているのでご存じの方も多いと思いますが、これによってロックフェラー財閥の作った巨大な石油精製・販売会社は、34社に分割されてしまいます。この中には、Exxon社、Mobil社、Shevron社、Conoco社といったその後の石油市場でオイルメジャーとして大きな存在感を示した会社も多くあります。

 私の本来の専門分野であるプロレス界においても、実は米国のAnti-trust lawは大きな影響を与えています。かつて、1980年代の半ば頃まで、プロレスの「世界王者(まあ、プロレス界では、いわゆるビジネス上の理由で幾つもの世界王者が存在する、という事情は措くとして)」の最高峰は、NWANational Wrestling Alliance)が認定するチャンピオンだとされていましたが、このNWA王者を定期的に招聘しタイトルマッチを開催するには、NWAという連盟の会員となる必要があり、かつ、その会員は「個々のマーケットに1人のみ」に限定されていました。例えば日本市場では、ジャイアント馬場率いる全日本プロレスのみが毎年2回、「南部の麒麟児」Jack Brisco、「美獣」Harley Race、「狂乱の貴公子」Ric Flairといった時の王者を招聘する権利を有していたのです。

 私もこれまでプロレス雑誌にチラリと書いてあった「シャーマン・アンチトラスト法に基づく裁判所の判決でNWAは弱体化し・・・」という記述のみしか目にしていませんでしたが、これではイカンと、ネット上で資料を探してみました。出てきたのは、1956年のアイオワ州地裁の判決文。エライ古いな、これでは1990年代以降のNWAの弱体化を説明できないな(勿論、弱体化の要因は他にもあるのですが)、と感じつつ読んでみると、「主催者や興行主がその地域での唯一排他的な存在であるということを認めることを目的とした合意や行為は認めない」とか、「その地域で、他の主催者や興行主が興行を行うことを妨げることを目的とした合意や行為は認めない」という、何だかアタリマエのことが書いてあります。まあ、確かに王座の乱立を後押しする効果はあるのかな、と感じた次第です。王座が乱立すると競争は発生しますが権威は下がります。巨大IT企業と独禁政策の関係も目が離せない話題になりそうです。