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第93回

第93回

 621日(月)の日経新聞朝刊を見たら、12面に「化学がつなぐ世界」ということで大手化学メーカーによる合同広告と、それに続いて超大手6社のトップのインタビューが掲載されていました。かなり目を惹く広告なので、御覧になられた方も多いと思います。

 「化学」というのは、ある意味幸福な学問分野であり、技術分野であり、産業分野であると思ってきました。大学の理学部(化学科)にも、工学部(応用化学科、工業化学科、化学工学科等)にも、企業にも「化学」を冠した組織があります。単純にその点だけを捉えても、化学関係者には、独特のアイデンティティと連帯が生まれやすいと思います。

 当方の勝手かつ学術的根拠の乏しい「ダンゴ理論」でも、化学分野におけるサイエンスとテクノロジー、テクノロジーとビジネスの緊密な関係は特筆すべきものと感じてきたところです。さて、それはともかく、現在の人類及び地球が直面する課題の大部分が「化学」に関連しているのも皆さんご承知のとおりです。例えば、地球温暖化にせよ、海洋プラスチックごみの問題にせよ、「化学」はその「原因」にも「解決」にも大きく関わっています。

 超大手6社のトップも、勿論、カーボンニュートラル、循環型社会形成、サステナビリティ追求といったテーマに言及しています。ここ数十年の化学・材料分野のイノベーションを見ても、家庭用燃料電池、リチウムイオン電池、光触媒、液晶材料やフラットパネルディスプレイ用各種フィルム等、身近なものを数多く挙げることができます。これらは、少なくとも50年前には、私たちの身の回りには影も形もありませんでした。そういう意味で、上記の課題解決に今後も「化学」が大きく貢献するであろう、ということは私としても期待していますし、そうでないと人類が困ります。

 昔、研究開発関係の仕事をしていた頃、様々な業種(殆ど製造業ですが)100社の研究開発部門のトップを訪問して、政府の技術政策に関する課題や改善すべき点を伺って歩きました。その中で印象的だったのが、異なる材料メーカー3社のCTOChief Technology Officer)から伺った「材料開発は時間がかかる。実用化まで、まず30年は必要」という言葉と「すぐできる技術は、すぐカネになるが、すぐダメになる」という言葉です。不思議なことに、この3社は得意分野も全く異なるのですが、殆ど同じwordingでお話をいただいたことに大変感銘を受けました。

 勿論、世界の研究開発の現場の最前線では、人工知能を使った材料開発・構造解析が盛んに行われています。過去必要だった材料研究開発の時間が10分の1、あるいは100分の1くらいに短縮されることも出てくるでしょう。しかしながら、「物質の謎を解き、物質の機能を最大限に活かして、人類の役に立つものを作る」という化学の本質は何ら変わらない筈です。正直に言えば、超大手6社のトップには「我が社こそは、我が社独自開発の〇〇技術でカーボンニュートラルを必ず実現させる」というような力強い発言を期待していたのですが、まだ技術はそこまで到達していないということでしょう。いずれにせよ、何となくdigitalな技術ばかりが世の中で持て囃されるような気がする昨今ですが、「物質」の本質に切り込む化学の力は、とても大事だと認識した次第です。