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第85回

第85回

 いよいよゴールデンウィークですが、多くの都府県が緊急事態宣言の下、どこに出かける訳でもなく、ご自宅でゴロゴロしている方も居られると思います。一方で、特に海外との仕事はGWでも待ってくれない、という方も多いと思います。当方もそうなのですが。

 今回は「技術のタコツボ」の話です。かつて学問は今ほど細分化されていませんでした。これが分かれていったのは、ギリシャ時代のアリストテレス以後だとされている、というのが定説ですね。それ以後、学問は分化に次ぐ分化を繰り返してきている訳です。ちなみにアリストテレスの著作でいわゆる自然科学系のものは「自然学」「天体論」「生成消滅論」「気象論」の4冊のようですが、おそらくこの中の「自然学」の中から、物理・化学・生物学等が分化・発展していったのだろうと思います。

 さて、私の得意な「タコツボ」論は、まだ十分に体系化されていません。20年近く自分の感覚論・経験論と数少ないエピソードだけで方々で講演や講義を行っているのは(おカネを儲けている訳ではないので、そこは悪質性が少ないと思いますが・・・)、知識人(?)としては風上にもおけぬ輩ということになります。が、色々なお話を識者から伺うと、「こりゃ、どうみてもやっぱりタコツボだ」と思うことはあるものです。

 かつて、経産省で技術政策の仕事をやっていた頃、関西地方のある成膜企業の社長とお話をする機会がありました。その企業は「成膜」技術ではトップクラスの技術を有しています。分かりやすい例で言えば、ポテトチップスの袋の内側は銀色になっていますが、あれはアルミを蒸着させた膜です。その会社は、相当以前に、「幅1.8mのポリエチレン膜を秒速2mで流して、その上に1点のピンホールもなくアルミを蒸着する」技術を開発していました。社長との会話は今でも一言一句ハッキリと記憶しています。言文一致体で書くと次のとおりです。

(安永)社長、これは凄いですね。どこかの大学との共同研究ですか?
(社長)ワシも(某有名国立)大学のセンセに相談したんや。したら「社長、これはな、スパッタリングゆうてな。応用物理学会で、1970年代に論文はとうに出てしもうとる。大学で今更こんなんやったかて論文書けヘンよってに、誰もやる奴なんか、おらへんで」言いよる。せやから、ワシも覚悟決めて、社内でやったんや。

 いや、確かにそうかも知れません。ただし、学術論文は、決して動いたりしない数平方cm(あるいは数平方mm)の金属やガラス表面への蒸着について書いたものが多い筈で、上記のような技術を目的とした研究ならば、全く別種の課題がたくさん出て来た筈ですが・・・。おそらく、「高速で動く物体上への蒸着」、「高温に弱い樹脂表面への蒸着」ということで、それまでの学問上の扱いとは異なる問題が多く出るので、以前の学会ではこういう課題を扱うことが「本流」のテーマとは認められなかったのだと思います(現在は、さすがにそういうことは無い筈ですが)。しかし、産業界では分野の壁などに遠慮することなく課題は毎日溢れてきます。色々な分野の専門家の知恵を総合しつつ、新しい課題に臆せず挑むことが大発見の鍵を握る、とノーベル賞受賞者の口からも語られています。言うは易く、行うは難しですが、学術の世界でも絶えず「新風を吹き込む」のがますます重要な昨今です。自分も心したいと思います。