このページをシェアする

第76回

第76回

  世界は物凄いスピードで変化している、ということを自覚せざるを得ない毎日ですが、「世界」というものの地理的概念はどう変化してきたのだろう、というのは誰しも関心のあるところだと思います。今回は「地図」の変遷について書いてみようと思います。

  この1年を別にすれば、私は過去35年間、比較的海外に出かけていくことの多い仕事をしていました。コロナ禍が収束すれば、おそらくまた海外出張が待っているでしょう。やはり、開発途上国への投資や技術移転を進めるにあたっては、リアルな肌感覚というものは説得力に繋がりますから、大事にしたいと考えています。

  先日、『世界をおどらせた地図 ~欲望と蛮勇が生んだ冒険の物語~』、『世界をまどわせた地図 ~伝説と誤解が生んだ冒険の物語~』(どちらもエドワード・ブルック=ヒッチング著 日経ナショナルジオグラフィック社刊)という2冊の本を買いました。私は、字ばかりの本は苦手です。この2冊は、沢山のカラフルな古地図とともに非常に刺激的なエピソードが満載で、大変楽しく読むことができます。(原題は、前者がThe Golden Atlas、後者が The Phantom Atlas です。)

  有名な古地図と言えば、ギリシャの数学者プトレマイオスが作った扇形の世界地図があります。皆さんもどこかでご覧になったことがあると思います(高校の世界史の教科書にも掲載されていたような記憶があります)。これによれば、「世界」はヨーロッパとアフリカの地中海沿岸部分、トルコと中東、中央アジアとインド、それに、もしかしたら中国?というような国々で構成されていますが、いずれにせよ、2世紀の時点で「世界は結構分かっていた」ともいえるし、「今と比べればごく狭い範囲しか分かっていなかった」とも言えます。

  「世界」がどこまで続いているのかは大きな謎ですし、見知らぬ国を訪れてみたい、あわよくば珍しい財宝や動植物をもとに交易をやって儲けたい、と考える探検家が続々と現れるのは当然のことです。それが「世界」の発見と拡大の推進力であったし、今でも心の中では「どこかにまだ未発見の無人島は無いものか」と夢想する人は(私もそうですが)多いと思います。そして、半ば当然ですが、過去には、「実在しない国や島」を記した「間違い」「誤解」「嘘(でっち上げ)」の地図が世の中に出回ったことも多々あるようです。

  一番有名な事例が、「アトランティス島(大陸)」であることは疑いようがありません。まあこれは哲学者プラトンの時代からの話ですので如何とも判断しがたい訳ですが、今なお考古学の研究対象としても、またTV特番のネタとしても成立している興味深い存在ではあります。ちなみに、1917年にはデンマーク人グループにより、パナマとコスタリカの沖合の群島が「アトランティス及びレムリア公国」として独立(?)を宣言したというトホホな話もあります。また、国連海洋法条約(1982年採択)上、公海と見なされるメキシコ湾内の海域で、16世紀の古海図にメキシコ領として記されている小さな島「ベルメハ島」が本当にあるのかどうかを巡って2009年(!)にメキシコ政府が調査団を派遣したというエピソードもある、ということを知りました。(『世界をまどわせた地図』の方です。ちなみに本件については、「米国が油田の権利を手中に収めるために、CIAの手で島全体が破壊された」という説まで出たとか・・・)。まだまだ、世界にはロマンと欲望の渦巻く「地図」が残っているようですね。