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所長のひとりごと

所長のひとりごと

第21回 2019.10.31

 UNIDOの最大のミッションは、開発途上国・新興国の工業を発展させることですが、今回は、少し長期的視点から「将来の製造業とはどういうものか」について最近考えていることを書いてみようと思います。 

 製造業というのは、言うまでもなく「モノを作る」産業ですが、近年、様々なところで行われている議論は、この「モノを作る」という概念を何らかの形で拡張する動きだと考えています。

 まず最も頻繁に指摘されるのが、IoT/Industrie 4.0 等に代表される”connected” の動きです。単純な規格品大量生産・大量消費ではなく、より細かな消費者の需要を反映し、製造~流通プロセスを短TATで廻し、効率を上げる動きだとも言えます。また、これの延長線上に3Dプリンター等によるカスタマイズされたものづくりもあると思います。もう一つが、Circular Economy の流れで、これについても「リサイクルやリユースで資源・物質を(極力)循環利用する」だけでなく、「希少元素を極力使わないものづくり」や「モノを所有せず sharingしてサービスとして消費する社会」、「リサイクルしやすい製品設計」等の色々な方向性があると思います。更に、もっとサイエンス寄りの方向では「計算科学の手法を使った機能”“構造”“製造プロセスをコンピュータ上で設計する材料開発」もあれば、「大量のデータをAIに喰わせて最適設計を行う」ものづくりもあるでしょう。いずれにせよ20世紀とは、ものづくりの中身もやり方も大きく変化せざるを得ませんし、既にどんどん変化しています。

 ためしにネットで「次世代 ものづくり」について検索してみると色々なサイトがヒットしますし、上記のようなキーワードも出てきます。が、率直に言えば、何か違う・何かもの足りない思いもしてしまう、というのが私の率直な感想です。

 私が勝手に期待する「新しいものづくり」にも、幾つか方向性があります。例えば、次のようなものです。1)本当に未利用のエネルギーを使えないか? 「熱」や「電気」や「燃料」は溜められますが、「光」は溜められません。が、実際に我々が使っているエネルギーの相当部分は照明用です。であれば、昼間さんさんと降り注ぐ陽光を「光のままで蓄積」し、夜も光のままで使えるようになればいいのではないか? 2)目的に応じて「自ら形(や機能)を自在に変えられる」機械(reconfigurable machine)はできないか? 既にある種のLSI(半導体集積回路)は、一定の範囲内でそういう機能を持ち始めていますが、もっと積極的に周辺環境に対応して形や機能を変える機械があれば、これは便利だと思うのですが。3)普段は普通の椅子だが、公道を安全に走り、集団で移動する時には簡単に連結するクルマ、みたいなものはできないか? 4)「小さなものは小さな工場で、かつ、プロセス変更も容易な身軽な製造プロセスが実現できないか?」これは既にマイクロ化学や半導体マイクロファクトリーとして研究開発も盛んに行われていますが・・・。

 いずれせによ、これから20年もしたら、こうした陳腐な想像を越えた「未来の製造業」が発展していて欲しいと思うものです。ギリギリ自分も生きているか・・・。

第20回 2019.10.24

 今月はじめには、日本人によるノーベル化学賞受賞(リチウムイオン電池:吉野彰氏)という嬉しい報せもありました。ということで、今回の話題はテクノロジーです。

 我々は「技術は進化する」のは当然の真理だと思っていますが、それは何故でしょう?「人類は未知のものを知りたい動物」だからだ、という解釈(curiosity-driven)もできますし、「必要は発明の母」だからだ(needs-driven)、というのもまた真なりでしょう。リチウムイオン電池の事例を見ても、現実にはこの二つが多くのレイヤーで複雑に絡み合ってイノベーションが生まれてきているのだと思います。

 では、どう進化するのか? その道筋は単純ではありません。それに、イノベーションの実現には、当然ですが技術以外にも、ビジネスモデル、社会構造、制度や規制の仕組み、といった要素がこれまた複雑に関係しています。必ずしも常に「見えざる手」のお導きによって最適解に行き着くということが保証されているわけでもありません。

 これまでの科学技術史を眺めていると、「世の中に普及しなかったけれども、かなり(技術的な視点からは)魅力のある技術」が数多く発明されてきたことが分かります。イノベーションには「経路依存性」というものがあり、社会の構造やユーザの選好や供給者側の事情により、最終的に選択される技術の形が変わってしまう、というものです。まあ一種の「進化論」的な見方と考えていただいて結構だと思います。

 例えば、熱機関の分野にはスターリングエンジンというものがあります。熱力学の理論からは、熱を仕事に変換する場合、理想的なカルノーサイクルというものによる効率を越えられないとされており、スターリングエンジンはまさにカルノーサイクルの効率を実現できる可能性があると言われています。ただし、大きな出力を得るためにはやたらと大仕掛にせざるを得ず、そうなると効率が低下する等の欠点もあったので極めて実用例は限られており、現在のレシプロ式ガソリンエンジン等のようには普及していません。が、冷凍機(ヒートポンプ)としては効率が極めて高い、あるいは焼却炉の廃熱利用等と組み合わせれば実用的な装置となる、等により見直されているのも事実です。「爆発」現象を利用しないので非常に静かで、用途によってはまだまだ発展の可能性があるのだと思われます。

 また、「かつては主流だったのに消えてしまった(あるいは消えそうな)技術」も存在します。若い人はもはやご存じないかもしれませんが、かつてテレビの画面はブラウン管(正確には陰極線管:Cathode Ray Tube (CRT))でした。これは、映像信号によって変調された電子が、赤・緑・青の3本の電子銃からビーム状に放出され、高電圧で加速されるとともに電磁石により偏向走査されて、ブラウン管表面に微小なドット状に塗布されたこれまた三原色の蛍光体を励起して発光する、という原理によって画像を写すものです。これは、まさにアナログ電子工学・電磁気工学・無機化学の一つの到達点だと思いますが、作動原理の異なる液晶や有機ELにとって代られたことで技術体系ごと失われてしまうのではないかと、私は秘かに危惧しています。

 いずれにせよ、技術は一筋縄ではいきません。途上国に適合するのは「過去、主流にならなかった技術」かもしれません。新しい技術を研究開発することも、過去の技術に光を当てて真の応用の場を見逃さないことも、工学・産業に携わる立場として等しく重要と考えています。

第19回 2019.10.16

 まずは台風19号によってお亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された方々にお見舞いを申し上げます。今後、寒い冬の到来が近づきます。皆様の生活がいち早く落ち着きを取り戻されることをお祈り申し上げます。

 さて、今回の話題は文学です。そもそも私は文学というものに殆ど無縁の人間ですが、坂口安吾の小説に「二流の人」というのがあります。戦国時代の名軍師である黒田官兵衛を主人公としたもので、ご存知の方も多いと思います。これが実にいい。

 まあ、中身はご一読いただければ分かるので言及しませんが、おそらく当代超一流の軍師であった黒田官兵衛を表題でバッサリ「二流」と言い切っているのが凄い。勿論、これは「軍師としては超一流で秀吉を警戒させたほどの人物だが、あわよくば関ヶ原の混乱に乗じて天下を狙ったもののそれは叶わず、天下人たらん人物としては二流だった」というメッセージがこめられているのだと思いますが、それにしてもこの思い切りは凄い。日頃、我々無名の人間は「一流」や「超一流」にこそ憧れるものだ、という常識を逆手にとった見事な逆説だと思います。(末尾の「応仁以降うちつづいた天下のどさくさは終わった、俺のでる幕はすんだという如水の胸は淡白にはれていた。どさくさはすんだ。どさくさとともにその一生もすんだという茶番の儚さを彼は考えていなかった。」というのがまた、いいですね。「ははは、どさくさだよ、どさくさ」と聞こえてくるようです。)

 そう言えば、「超二流」という言葉があります。プロ野球かつての西鉄ライオンズの監督で「魔術師」とも呼ばれた三原脩氏が「超一流の選手でなくとも、用兵を工夫すれば時と所によっては超一流に匹敵する活躍をする一芸に秀でた」二流選手、のことを形容して使い始めた言葉だと思います。私はいわゆるビジネス書の類には全然興味がないのですが、三原脩、野村克也の両プロ野球監督に関する本は結構持っています。野村氏も「野村再生工場」と呼ばれ、他の球団で燻っていた人材をうまく活躍させる名人と呼ばれているのは皆様ご存知のとおりです。私も、綺羅星のような巨大戦力をベンチにどっかと座ってアゴで使う大監督よりもこういうタイプのリーダーに憧れます。

 かつて日本の組織は「全身全霊」で組織に貢献する「万能型」の人材を最も重用して来たのだと思います。それは半分は当たり前で、そういう人材は組織にとって最も信頼できるからです。大きな組織、既に一定の地位を獲得した組織にとっては、そういう人材は依然として貴重なのだと思いますが、これからは、特に小さな組織や新しい組織にとっては、もっと流動的で柔軟な貢献をできる「異能型」や「一芸型」の複数の人材をとっかえひっかえ繰り出しながら、活躍してもらうことが大事になるのではないかと考えます。となると、今後は、三原監督や野村監督のような変幻自在のマネジメント・スタイルがより重要視されてくるのではないかと考えているのですが・・・。

第18回 2019.10.10

 もはや大昔の、それこそ昭和時代の話ですが、インスタントコーヒーのTVコマーシャルに「違いの分かる男」というのがありました(今だとジェンダー的に問題になりそう)。

  仕事をしていて、「何だか似てるけど違うぞ」ということを察知する能力は重要だと思います。微妙だけれど絶対にどこか違う、という点を弁別できないと、時として致命的なダメージを負ってしまうこともあります。これには、実は経験がモノを言う場合が多いようにも思います。

 私はこれまで何度か申し上げてきましたが、長崎市出身です。小さい頃、大人たちが時として「あン人は鯵鯖の区別もつかん」というような表現で他の人(これまた他所の出身の人を主に)を揶揄する場面を何度か見ました。ご存知のとおり、アジにはゼイゴがあるし、サバは肌に独特の模様がありますから、子供心に、同じ青魚といっても結構違うモンだよなとは思っていましたが、確かに魚をあまり食べない地方の人たちにとっては区別がつきにくいこともあったかもしれません。

 また、私はクラシック音楽も好きで時々聞いていますが、「ヘンデルとバッハ」、「ハイドンとモーツァルト(ついでに言えばごく初期のベートーヴェンも)」は、ちょっと聴くと結構似ています。これは時代時代の音楽語法によるものも多いと思うので、当たり前と言えば当たり前ですが、それでも沢山聞いていると「あ、ここはちょっとしたところだが、絶対に違うよな」という点が見つかります。まあ、「個性」というものはそもそもそういうものだと思うのですが。

「個性」と言えば、かつて1974年に、当時の新日本プロレスのトップのアントニオ猪木と国際プロレスのエースの座をなげうって独立したストロング小林がシングルマッチで戦った時、アゴが長く妙にもみあげを伸ばしていた二人が、見かけ上もかなり似ていたことを思い出しました。今になって思えば、カール・ゴッチ直伝のストロング・スタイルに立脚しつつも異種格闘技などキワモノ路線も交えてスタイルを確立していった猪木と、ボディビルダー出身でいわゆる「怪力」ファイターの系譜に連なる小林(後年は坊主頭で寧ろ怪異な風貌の俳優~ストロング金剛として活躍した)では、全く違いますが、そこまで「突き詰めた個性」の確立前には、期せずして何だか似てたということではないかと思っています。

 仕事のやり方にも「個性」は現れます。文献や資料を駆使して論理的に主張を組み立てる人、様々な関係者へのインタビューから共通点や相違点をあぶりだす現場中心型、まずは自分の仮説をやや大げさに投げかけながらそれへのリアクションをもとに主張を作っていくやり方、等等。私は、色々な「芸風」を大事にしたいと思います。自分の「芸風」は社会人生活30数年でそれなりに作ってきたつもりですが、常に「芸風を広げる」工夫や「芸風を磨く」工夫をしたいと思っています。加えて、「自分とは全く芸風の違う」仲間と一緒に仕事をすることが、組織の強靭さ・幅広さを作る上では絶対に不可欠だと思っています。

第17回 2019.10.04

 台風が毎週来たり、10月になっても真夏日だったり、という日々が続きますが、皆さんも秋の気配が訪れる中で(少しは)快適にお仕事に取り組んで居られることと思います。

 最近、色々な場でSDGsに関する議論が、それも具体的に、かつ深く掘り下げる形で行われるようになったのはとても喜ばしいことだと考えています。一方で、経済界ではまだまだ「SDGsって自社の事業には直接関係が無いよね」「社会貢献だから“持ち出し”でやらないといけないんだな」とお考えの方が多いように見受けられることもしばしばです。

 つい先日も、関西地域で何人かの方々と日本企業(特に中小企業)の取組みについて意見交換する機会があり、そこでも日頃感じる違和感や私の考えを申し上げてきたところです。

 第一の違和感は、多くの方々が「SDGsとは、自社の事業とは別物だ」と考えておられるフシがまだあること、です。確かに、社業での製品やサービスが、「ただちに人々の貧困や飢餓を救ったり、温暖化を解決したり」するかと言えば、そうでもないことが多いかも知れません。しかしながら、何らかの製品を作っておられる企業は、必ずやその製品あるいはその製品(部品、材料)が組み込まれた最終製品を通じて、ユーザの welfare の向上を実現している筈です。また、その製造・販売プロセスを通じて、必ずや雇用や経済発展への貢献をしておられる筈です。(まあ、それが往々にして全体最適で無い場合もあるのは承知の上ですが・・・)

 だから私たち国連機関や政府は、産業界に対して「あなたの会社はカッコいい。既にSDGsを実践しているからだ。自社の“カッコよさ”を認識し、もっとカッコよくなって世界に大声で言おう」というメッセージを強く伝えることが必要だと思います。

 第二の違和感は、「SDGsとは、社会貢献だから“儲けてはいけない”“持ち出しでやらなければならない“」と考えておられる企業が、やはりまだ多そうだ、ということです。既に、経団連の「企業行動憲章」でも、明確に「イノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービスを開発、提供し、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る」と明記されていますし、当たり前ですが、「儲からなければ sustainable な企業活動とならない」訳ですから、我々は「SDGsに貢献してどんどん儲けましょう」と言うべきなのです。この点、(私は九州人ですが)「世の中にエエことやって儲けて何が悪いんでっか?」という、関西の方々のメンタリティは凄く真っ当だし、そもそも「三方良し」に代表される日本の商道徳にも合致してますよね。

 さて、最後にちょっと宣伝です。来週107日(月)の午後3時から、国連大学本部ビルにて「海洋プラスチック問題解決に向けて」というセミナー(https://www.unido.or.jp/coming/7797)を開催致します。アフリカから南ア、ナイジェリア、ガーナ3か国の政府関係者をお招きし、日本政府(環境省、外務省、経済産業省)、関連企業、研究機関からのプレゼンテーションと意見交換を行います。既に100名近くの参加登録を頂戴していますが、もう少しは空席があると思います。ご関心のおありの方は是非web上での登録の上、どうぞご来場下さい。

第16回 2019.09.26

 この仕事をしていると、色々な人にお会いして様々な話をします。時々、思うのですが、「自分が常識だと思っていることは、もしかしたら相当偏っているかもしれないし、あるいは意外と真っ当かもしれない。最大の問題は、一体どちらなのか自分には全く分からないことだ」という問題に突き当たります。

 UNIDOは、そもそも「開発途上国が貧しいのは、一次産品(農林水産品や地下資源)に依存した経済構造だからだ。工業を振興しなければこの経済構造からは脱却できない」という思想で設立されました。ですから、ウィーン本部へ行くと、今時ちょっと珍しいくらい「ものづくり信仰」の雰囲気が残っています。かくいう東京事務所も、「日本の技術を途上国・新興国に」というのが重要なミッションですから、ICTやサービス産業のパートナーとしての比重は増えつつも、「現地への工場進出」がやはり投資促進の面からも人材育成の面からも大変嬉しかったりします。真っ当だと思いつつも、やはり「ものづくり信仰」の影響でしょう。

 デジタルとアナログは対立概念ではなく、相互補完概念だと考えています。私自身も技術屋ですから、「世の中の現象は全てアナログ。だから、digitalcyber)で解決できるのは素晴らしいことだけれど、入口から出口まで全てをdigital でやれる訳ではない。A/Danalog to digital)変換を行うセンサと、D/Adigital to analog)変換を行うアクチュエータのところを押さえないと、つまりは real のところをしっかりやらないと、日本の産業としては生き残れないだろう」と常々考えています。これは、日本の官民が旗を振っているところの “Society 5.0” と同じ思想だと思います。

 まあ、当たり前の話で、私もここ10年近く、殆どの書籍やCDはネット通販で買うようになりましたが、そうなればなるほど、物流インフラへの投資や、物流ビジネスの消費者対応(不在時の再配達等)が話題になりますし、米国では既にかなり一般化したスマホでの配車サービス(普通名詞で言うのは結構難しい!)の「質」も、結果的には偶然やってきたドライバーのモラルや運転スキルに大きく依存する筈です。勿論、ICTインフラの発達と新技術・新ビジネスモデルの急速な普及によってこれらは可能になった訳ですが、意外とこの「アナログ部分の質」の議論がおざなりになっているような気がするのは私だけですかねえ? それとも、皆さんその点は全部「お見通し」あるいは「当然の前提」とした上で議論しているのかなあ?

 私は、半導体産業に関連する行政の経験が多少ありますが、かつてある米国系大手半導体企業がDSPDigital Signal Processor)に大きな経営資源を投入した際(1990年代後半)、その会社のトップのメッセージは明快で「世の中の全ての信号は analogだから、それをdigitalに変換するところ、演算を行うところ(DSP:大量の積和演算を高速に実施することが可能なアーキテクチャになっているのが普通のMPUとの違いです)、そしてそれをまた analog に変換するところ、この一連のチェーンを扱う半導体に経営資源(R&DM&Aも)を集中投入する」というものでした。もう20年以上昔の話ですが、基本は変化していないのではないかと思います。そういう意味では、もう少し「analog digital の融合」を教育でも研究でも実業の現場でも深めたり体系化したりする必要があるのではないだろうかと常々思っています。

第15回 2019.09.19

 今回は仕事とは関係ない話です。いきなりですが、私はプロレスファンです。というか、正確に言えば「昭和プロレス」狂です。私が18歳になる頃までは、プロレスファンであることを同好の士以外の人の前でカミングアウトできませんでした。殆ど「隠れキリシタン」みたいなものです。時代の雰囲気が明らかに変化したのは、1979年に村松友視の『私、プロレスの味方です』が出版された後のことだったと記憶しています。 

 大学生時代は、寧ろプロレスを「語る」ことが一部で流行となり、「新日本プロレス派(念のために言うと猪木の方)」か、「全日本プロレス派(馬場の方)」かで、イデオロギー闘争に明け暮れていました。ちなみに私は(少数派の)全日派でしたが・・。(大学入試当日、受験生に「今こそG馬場 vs A猪木戦の実現を」と言う署名を集めて回り、白眼視されたことも思い出深い・・・一体何をしとるんじゃい!)

 1980年代後半から1990年代に入り、さすがの馬場・猪木も衰えて若手が次々に分派・独立して新たな団体を作り始めたあたりで、ベルリンの壁が崩れ、東西冷戦が終結、となると鈍感な私も「これは日本のプロレス界と同じことが起きている。これからは自由主義か共産主義かという二項対立ではなく、多様な主張・立場の対立が絡み合って世界は不安定になるのではないか」と直感しました。直感は当たっており、まさに地域紛争・人種対立が冷戦にとって代わり、私は「いや、これは世界がプロレスを模倣しているのだ」と認識するに至りました。後年、ハンチントンの『文明の衝突』を読んで、「な~んだこのトンチンカン、そんなこと俺たちとっくの昔に気づいとったもんね!」と思いましたが、別に自分がエラいのでも何でもない。エラいのはプロレスの方でした。

 プロレスの「本場」であるところの米国でプロレスがどう見られているかを痛切に感じたのがアメリカ留学時代(Colorado School of Mines というところで Mineral Economics ~資源経済学というのをやってた)です。何かの拍子に “The most intelligent people in Japan do like watching pro-wrestling matches on TV.” と言ったら大爆笑。しかし私は「なぜ日本ではそうなのか」を英語で説明することができず、自分の頭の中で最も複雑で抽象的なことは仕事でも資源経済学でもなくプロレスのことだと思い知りました。

 まあ、プロレスにも色々なスタイルがあるのですが、それまで「怪力系の悪役」だったニコリ・ボルコフとかイワン・コロフといったロシア系のリングネームのレスラー(不思議なことに南部訛りの英語を喋る)が冷戦終結後は突如善玉に鞍替えしたり、バブル時代には、ピンストライプのスーツを着てリングに上がるマイケル・ウォールストリートとか、チャンピオンベルトを札束で買う(リング上で)ミリオンダラーマンとか、とんでもないキャラクターも出現したりして、「幾ら何でもこりゃふざけ過ぎじゃないの」と思ったのも、だいぶ古い話になりました。今のプロレスには大分疎くなってしまいましたが、プロレスを見ながら「世界が今後どうなるのか」を考えるのは、これからも密かな楽しみです。

第14回 2019.09.13

 9月は台風の季節です。今週の月曜日は、首都圏の交通インフラの脆弱さを痛感しましたが、今も停電が続いている地域もあると思います。残暑の中、一時間でも早い復旧を願っています。

 ところで、私たちはこの夏はTICAD7でアフリカ一色の生活をしていたのですが、世の中の大多数の皆さんは必ずしもそうではなかったのだろうなと思います。そもそも8月は夏休みの最中です。ウィーンのUNIDO本部でもTICAD7担当以外は、まあ普通に(豪快に)バカンスを取っている訳で、冷房の切れたビル内で汗だらだら流しながら「俺たち何やってるんだろう」と思ったことも一度や二度ではありません。

 では「普通の夏休み」には我々は何をやっているのだろう?と改めて考えると、実はそれほど優雅ではない現実が待っています。田舎に帰省して先祖の墓参り、子供の部活やPTAの関係で夏祭りのパトロール(?)、昔の仕事の先輩との同窓会・・・。一回くらい、豪快に夏休みを取って小笠原諸島(これがカリブ海とかでないところが良くも悪くも自分らしい・・・)とかに行って、メールとかを気にせず暮らしてみたいとは考えているものの、なかなか実現できません。まあ仕事を辞めるまでは無理かなと思いつつ、それではジジイになってしまうではないか!と少し焦る日々です。

 先日、妻の友人が拙宅を訪れたそうです。その方はゲイジュツ関係のお仕事で、夏はほぼ毎年ヨーロッパでバイロイト音楽祭、ザルツブルグ音楽祭などをハシゴされるとか。優雅で羨ましい限りです。私にとっての夏休みの最大の贅沢が、伊豆の海水浴場でイソガニやウメボシイソギンチャクを取ったりするくらいなのと比較すると、大違いです。

 日本人が「有給休暇を取らない」のはかなり知られた事実だと思いますが、現実にはやはり仕事の繁忙がそれを許さない、というのも現実だと思います。しかしながら、日本の組織は「居ないなら居ないで、何とかする」能力も高いと思っています。そもそも Job description がそれほど厳密に規定されていないから、「アイツ、今週いないけど、この件、ここまではできるよな。急ぎだから、これで出しちゃおう!デキは85点くらいだけど許されるよな!」というようなことは実は頻繁にあるような気がします。ヨーロッパなら「休暇です。戻りは2週間後になります」と言われて、あっさり「あ、そうっスか」と引き下がらざるを得ないところです。

 私は「昭和のオヤジ」ですから、「雨が降っても槍が降っても仕事には行く」スタイルを34年ほど続けてきましたが、実は、日本の組織構造を根本的に変えなくても「85点でいい(責任者は、残りの15点を芸や人脈で補うとか、絶対に落としててはいけない所はビシッと押さえる)」という割り切りを共有できれば、「働き方改革」は難しくないと考えているところです。

第13回 2019.09.05

 このメルマガの読者の方には、先週横浜のみなとみらいで開催されたTICAD7(第7回アフリカ開発会議)に参加された方も多いと思います。先週は「実況中継型・ひとりごと」を秘かに目論んではいたのですが、やはり現実にはとても無理でした。

 今回はUNIDOとして5つのサイドイベントを開催したのに加え、アフリカ諸国の主催するイベントに参加(登壇)したり、当方のリー事務局長がアフリカや他の国際機関のトップや閣僚と会談等も行いましたので、現場はそれこそ「猫の手も借りたい」状況でした。

 その中で、特に東京事務所が主体となって行ったイベントが2種類、その一つが、以前このメルマガでもアナウンスした「アフリカ企業・UNIDOアドバイザーとの交流・商談会」です。当事務所所属の4人の現地アドバイザー(アルジェリア、エチオピア、モザンビーク、セネガル)及び現地企業10社が個別にデスクを設け、日本企業約50社の方々と、合計99件の個別面談を行うことができました。(http://www.unido.or.jp/outcome/seminars_events/7656

 当方のマネジメントの問題もあり、折角お見えいただいたのに目当ての現地企業との面談ができなかった、という企業さんも残念ながら数件ありました。この場をお借りしてお詫び申し上げます。当事務所の職員も、アポイントメントの整理とともに、必要に応じて日仏/日英通訳のお手伝い等をさせていただきました。ビジネスの臨場感を身をもって知るという意味でも、大変有りがたい機会であったと思います。

 なかなか直ぐに「商談成立」「投資決定」等とは行かないだろうと思いますが、我々としても、今回のビジネスマッチングの結果をフォローしてまいります。既に各アドバイザーから企業さんにメールでの連絡を行っているものも何件かあるようです。今回をきっかけとして良いビジネス・パートナーシップが生まれることを期待しております。

 ところで、TICAD7の実務に関わられた方々はそれぞれご苦労をされたものと思いますが、我々も、やはり実地にやってみないと見えてこない課題があることを痛感しました。それは、「会議室から会議室への移動」です。勿論、我々も過去の経験から会場内外の移動が大変であることは認識しておりましたので、事前の下見や、時計を見ながらの移動時間の計測等は行っていたつもりでした。しかし、首脳が数多く宿泊しておられるホテルのエレベーターがなかなか来ない! ああっ、もうすぐ次の会談時間なのにエレベーターはどっち行っとるんじゃい!上か、下か? という緊迫した瞬間が何度もありました。移動がタイトな場合は、私は先乗りをして先方の会議室の前で「大丈夫、大丈夫、今、エレベーターに乗ってるから、今、着くから」というような、「TICAD版・蕎麦屋の出前」みたいな下手な芸をやっていたのですが、ホント、今振り返っても冷や汗が出ます。

 次回TICAD8は、アフリカ開催ですね。3年後ですが、3年って、すぐ来るんだよなあ~。

第12回 2019.08.21

 日本人が残念なことに英語(外国語)をあまり上手く話せないのは世界によく知られた話ですが、特にヨーロッパ系の人たちに「普通の日本人はひらがな、カタカナの他に2000くらいの漢字を使うことができる」という話をすると、とても驚かれます(注:内閣告示の常用漢字:2136字)。

 学校教育を全て英語に、という主張もあれば、「日本語で高度な概念を理解してきたからこそ日本人の知的基盤は作られたのだ」という主張もあります。今回はそういう難しい話ではなく、「漢字で表す外国の国名」の話です。

 最近、駅の売店での夕刊紙の見出しに「米朝絶縁」「米朝危機」というような文字がありビックリします。落語ファンである私は、つい「あれ、(三代目)桂米朝師匠って、数年前に亡くなられたよなあ」と思ってしまいますが、「トランプ大統領が・・・」という文字を見てようやく己の不明を恥じる、という具合です。 

 20数年前、ASEAN関係の仕事をしていた頃、最初に覚えさせられたのが国名の漢字での略称でした。泰(タイ)、越(ベトナム)、比(フィリピン)等は知っていても、星(シンガポール)、尼(インドネシア)、緬(ミャンマー)等はその時に初めて覚えました。来週にはTICAD7本番を控え、段々忙しくなってくると、我々も国名を簡略に記述したくなります。アフリカの国名は漢字の略称ではどう書くのかな、と調べてみると、予想通り、あまりありません。

 Wikipedia には「エジプト=埃」「コンゴ(民主共和国/共和国)=公」「チュニジア=突」等というのも載っていますが、あまりこういう表記を見たことがありません。まあ「コートジボワール=象牙海岸」はそのものズバリですからいいとしても(小学生時代、世界地図には、象牙海岸と書いてあった記憶があります)、略字はなくとも、「阿爾及=アルジェリア」とか「烏干達=ウガンダ」とか「肯尼亜=ギニア」とか「莫三鼻給=モザンビーク」となると、まるで判じ物です。やはり身近な漢字で端的には表しにくいのがアフリカと言えそうです。これには勿論、アフリカ諸国が1960年代以降に続々と独立を果たした、という歴史も大いに関係していると考えられます。

 こういうことを調べていると、つい脱線したくなるのが私の悪い癖です。ヨーロッパの国名の漢字略称は、英仏独伊西蘭葡墺・・・等とおなじみのものが並んでいますが、何とアイスランドは「氷」だそうです。何だかあまりにストレートというか・・・。確かに、すぐ分かる。尤もUNIDO の任務は途上国の産業発展ですから、直接アイスランドに行く機会は無さそうですが、ご存知のとおり、この国は北米プレートとユーラシアプレートの持ち上がる線上にあり、地熱資源が豊富です。再生可能エネルギーの開発・利用のモデルとして、SDGsの達成やアフリカをはじめとする開発途上国のエネルギー供給のあり方を考える際にも参考となるのではないかと考えています。

第11回 2019.08.07

 暑中お見舞い申し上げます。いやあ、本当に暑いですね。熱中症等にお気をつけ下さい。

 いよいよTICAD7もあと3週間後です。今日は、我々の主催するサイドイベントの一つをご紹介します。先日Webでも発表したのですが(https://www.unido.or.jp/coming/7551)、830日(金)の10:30~16:00まで(途中12:30~14:00は昼休み)、ナビオス横浜(横浜国際船員センター)2階・カナールの間で、「アフリカ企業・UNIDOアドバイザーとの交流・商談会」を開催致します。TICADのメイン会場から10分程ですので、多くの企業の方々のご来場をお待ちしております。

 今回のTICAD7では、当事務所がアフリカに設置しているアフリカ・アドバイザー4人に、日本企業とのパートナーシップを期待する現地有力企業(トータル10社程度)が同行いたします。この機会に、アドバイザーの担当するアルジェリア、エチオピア、モザンビーク、ルワンダ、セネガル等の企業と、ご関心をお持ち日本企業の方々で直接の対話・意見交換の場を提供させていただこう、という趣旨です。

 おっと、申し遅れましたが、81日からは、新たにセネガルにも新アドバイザーを設置しました。アイサトゥ・ンジャイさんという女性で、これまでにネスレや大手タバコ企業での勤務経験を持っています。先々は近隣の仏語圏での日本企業支援も担当してもらおうと思っています。日本企業にとって、言葉の壁(フランス語)もあり、アクセスの難しかった諸国への投資促進の力になってくれると期待しています。また、当日は、アドバイザーは設置していませんが、ザンビアからも数社の企業が参加致しますので、ご期待下さい。

 これまでに参加が決定した企業には以下が含まれます。アルジェリアからは、家電製品等の組み立てを行なうBomare Company SARL、エチオピアからは、ICTスタートアップのPeragoInformation Systems PLC、鉄鋼・化学・不動産・建設など多岐に展開する有力コングロマリット Sisay Investment Group からWalia Steel Industry PLC、更に産業洗浄や水処理あるいは食品・飲料業に使用する化学品輸入の YANET Trading PLCの3社が、モザンビークからは鉄道・石油・ガス等のインフラ案件を担当する TATOS BOTAO, LDAと鉄道等のメガプロジェクトに参加している Zero Investimentos SAが、という具合です。近日中にセネガルから来日する2社の詳細も公開します。

 上記Webサイトでは、参加申し込みフォームでご参加の登録を行なっております。また、他の参加企業が決まりましたら、Webで更にご案内致します。これまでは「繋がっていなかった」企業同士を結びつけるのが第一の目的ですが、新たな出会いもあると思います。また、彼らには、当日(30日)以外にも色々な形で日本企業を訪問させていただいたり、日本のものづくりの「現場」を見学させていただいたり、というプログラムを予定しています。良い出会いが生まれることを期待しています。

第10回 2019.07.31

 ようやく関東も梅雨明けです。今年の梅雨は長かったですね。雨も沢山降りましたね。

 毎年、夏になると「あ~海に行きたい」「スイカ食べて昼寝したい」といった子供のような発想しか出てこないのですが、社会人になって34年目となった今も、(本当は殆ど休めないくせに)夏休みはいつも楽しいことをやりたいと期待あるいは妄想します。

 拙宅の猫の額ほどの庭にシマトネリコの木が生えています。そこに毎朝、カブトムシが樹液を吸いにやってきます。先週木曜は9匹、金曜は11匹確認しました。なぜか今年初めてそれを認識しました。去年までもやってきていたと思うんですが・・・。隣家の幼稚園児の男の子が目を丸くしてそれを観察しています。

 小学生時代、私は毎日海で泳いでいました。長崎港の沖には鼠島という小さな島があり、そこでは毎年鼠島水泳道場というのが開催されていました。今は埋め立てられて残っていませんが、そこでは何故か肥後細川藩の古式泳法の流れを汲む泳ぎを教えられていました。古式泳法といっても武士・忍者のそれですから、潜る時にはアタマから潜ると音がして敵方に発見されるから息を吐いて足から沈め、とか、立ち泳ぎしたまま殿様の前で書を披露する練習、だとか、です。よくも毎日行っていたな、よほど暇だったのかな、と今となっては思いますが、帰り道のアイスクリームを含め、ナンだか楽しかったのだろうと思います。

 夏休みと言えば、「自由研究」ですね。小学生時代、昆虫採集、貝類採集、植物標本作り、岩石・鉱物採集から、はてはお絵かき、工作、飼育日記の類まで。およそ考えられるものは一通りやりました。まあ好奇心旺盛だったのでしょうが、親もちょくちょく手伝ってくれていたような記憶があります。これを自分の子供と一緒にやろうとしても、なかなか興味を持ってくれないのですね。やれコイルの巻き数の違う電磁石を作ったから実験しよう、だとか、伊豆へ海水浴に行った際に採ってきたイソガニやウメボシイソギンチャクを水槽で飼おう、とか色々持ち掛けても、子供はTVゲームに夢中で、結局、私が全部やることになります。

 これも時代の変化だし、親の個人的な趣味・嗜好を子供に押し付けてもいかんな、と思いますから仕方ないのですが、実はこれ、自分でやると結構面白い。しかも子供の頃と違って多少は財力もありますから、色々な実験やら工作の材料をネット通販でバンバン買っても文句を言われない。というので(父)親が一方的に熱中してしまったりします。こりゃ本当に子供だ。

 とは言え、今年の8月末には横浜でTICAD7が開催されますから、あまりノンビリと夏休みをとっている訳にも行きません。子供も大きくなり、部活だ塾だと忙しいので「自由研究」に勤しむのも憚られます。また、いつもはこの時期、本国に長期帰国されることの多いアフリカ各国の在京大使閣下も今年は東京でお仕事のご様子です。夏休みは9月にとることにしよう、と割り切って(張り切って?)仕事することにします。

第9回 2019.07.24

 今年の梅雨は長雨ですね。梅雨明けも気になりますが、大雨で災害に遭われた方にはお見舞い申し上げます。

 今月の始め、デレゲート・プログラムでケニアの KenInvest(ケニア投資庁)の担当者を招聘しました(http://www.unido.or.jp/outcome/delegate/7465)。同国を対象としたデレゲート・プログラムはほぼ3年ぶりでしたが、担当者は、2010年から同庁の投資促進官を務めており、ジャパンデスク及び東アジアからの投資促進担当として働いています。2016年のTICAD VI でも「日本アフリカビジネスフォーラム」や「ケニアハウス」の運営に従事しており、日頃から当事務所の担当者と連絡を取り合っていたので大変円滑に実施でき、ほっとしています。

 我々の事務所は(お見えになられた方は良くご存知でしょうが)ごく小規模ですので、デレゲートの訪日中はオフィスで一緒に打ち合わせをします。毎週月曜朝の定例ミーティングにも参加してもらい、その時に、日本企業向けセミナーでのプレゼンの予行演習を必ずやります。私がその時に注文するのは、大体「(プレゼン資料中に)一人当たりGDPと人口は目立つように書いてくれ(そうでないと市場イメージが湧かない・・・)」「外資への優遇策は、単に優遇策がありますよ、ではなくて具体的に例示してくれ(そうでないと日本企業にとっての魅力が伝わらない・・・)」「戦略的に誘致したい産業セクターがある場合には、単にそれを列挙するのではなく、なぜその産業が戦略セクターなのか、その背景となる政策や根拠を示してくれ(そうでないとどの程度現実的なものかどうかが判断できない・・・)」というようなことです。

 良いデレゲート・プログラムを実現するカギの一つが、その国の投資環境に関するデレゲートからの vivid な情報提供であることは言うまでもありません。ケニアからのデレゲートは実にこの点に関して熟達しており、我々の意図を汲んで分かり易くインパクトのあるプレゼンをやってくれました。

 20年ほど前は、デレゲートは数ヶ月(!)日本に滞在することも多かったと聞きます。場合によっては1年ほど滞在する場合もあったとか。今は電子メールとインターネットがあるおかげで仕事は圧倒的に速く進むようになりましたが、デレゲートの滞在期間も1~2週間になりました。

 とは言いつつも、時代が変わっても(と言うと凄いオッサン臭い感じがプンプンしますが・・・)、投資促進には現地の生きた情報と人脈が重要なのは昔と変わりません。我々にとっては事務所開設当時から取り組んでいるデレゲート・プログラムですが、時代の変化は反映しつつも、泥臭く、粘り強くやっていかなければならないし、フォローアップについてもこれまで以上に力を入れなければならないと考えています。幸いなことに、当事務所のスタッフは皆スマートに仕事をしていますが、「泥臭い」スタイルも結構板に付いて来ています。乞うご期待、というところです。

第8回 2019.07.16

 今回は、訂正からひとつ。前回、「黒ワインや青ワインは無い」と書きましたが、二人の読者の方から「フランスのある地方には、濃厚な赤ワインで黒ワインと呼ばれるものがある」、「スペインには青ワインというものがあり、本当に青い」というご指摘を頂きました。有難うございます。先週は Global Manufacturing Industrial Summit (GMIS) というのに参加するため、ロシアに出張していたのですが、街で入ったイタリアンレストランに Vino Verde というのがあるではありませんか! 頼んでみると白ワイン。完熟前のブドウを使ったものを「緑のワイン」と表記しているのですね。この他、黄色ワインやオレンジワインもあるとか。浅学非才を恥じる毎日です。

 さて、私が滞在していたのはシベリアのウラル地方、スベルドロフスク地区のエカテリンブルグという都市です。ウラル随一の工業都市で、上述のGMISの開会式にはプーチン大統領も来賓として参加していました。彼の基調講演で非常に印象に残ったのが、「ロシアの平均気温の上昇ペースは世界平均の2倍である」という、温暖化問題への取組みへの「本気」を感じさせる発言があったことです。大産油・ガス国で大産炭国でもあり、製造業でもエネルギー多消費型の比率が高い筈のロシアにしてこの危機感、やはり世界は動いていると感じた次第です。

 そこでのテーマの一つになっていたのが Nature Inspired Technology。まあ数年前から日本でも大きな話題になりましたが、良くある例としては「飛行機の形と鳥の形」、「蓮の葉の表面上の細かい毛が水滴をはじく」、「クジラのヒレの形が風力発電の風車のブレードにも応用されている」というようなものです。私もこういう話は大好きですが、かつて、私が勤務していた産総研という国立研究所でこういう研究をしている研究者を数えてみたら約50人をリストアップできました。研究者の総数が2,300人ですので一大勢力です。調子にのって「一つの研究組織を作るか」とも考えたのですが、個別の研究を見てみると、実はあまり「一つにまとめる意味」が見いだせない。よく考えてみるとそれは当然で、「生物の形や機能は、進化の過程で最適化されてきている」のだから、そこから発想のヒントを得て新しいものを作る、というのは人間としてはアタリマエのことなのですね。言ってみれば「研究の中身」ではなく「研究の方法論(の一つ)」に過ぎないのだな、と気づき、拙速の思い付きでコトを始めるのを止めたことがあります。

 また、このイベントの中の UNIDO Roundtable という催し物の中では、投資促進を「専門家・個人の時代」、「パソコンの時代」、「インターネットの時代」、「人工知能の時代」と4つに区分し、Investment Promotion 4.0 の時代がついに到来した、という提案がUNIDOのリー事務局長からなされました。個人的には、パソコン出現前はもうちょっと細かく分けられるんじゃないの、と思いつつも、世界に溢れている情報の処理とリスクの低減にAIはもう少し使える筈だよな、とも思っていたところで、片棒を担いできました。(尤も、私はパネルでは人工知能礼賛ではなく「世の中の全ての事象は analog なのだから、AIによってdigital (cyber) が精緻になればなるほど、それを実現する analog (real) も同時に大事になるはずだ」ということを言ってきたのですが・・・。)

第7回 2019.07.05

 最近、「分かりやすい話」とは何だろう、と考える機会が多くなりました。

 先日参加した、駐日モロッコ王国大使館とJICA主催の名古屋での「モロッコ王国投資セミナー」でも、在京大使館のブフラル特命全権大使が、同国の経済状況や投資促進策について素晴らしい講演をされました。ご存知のとおり、モロッコは、国王自らのイニシアティブで投資環境整備と外資への優遇策が積極的に講じられていますので、日本からも自動車部品産業をはじめとして60数社が進出する、という状況になっています。我々の事務所も、かねてからデレゲートのハッサーニ氏(前・モロッコ投資庁、現・モロッコ航空産業フリーゾーンの局長)と連携し、矢崎総業さんのワイヤハーネス工場の進出のお手伝いをしたりしたことがあります。

 ブフラル大使は、分かりやすいスライドと、非常に魅力的なモロッコ紹介ビデオを使ってご説明されたので、参加者の皆さんにも大きなインパクトを与えたのではないかと思いますが、やはり「中身が良い」と「分かりやすい」プレゼンになるのだと、今更ながらアタリマエのことを感じた次第です。

 私は、UNIDO東京事務所長に着任する前、産業技術総合研究所という国立研究所の役員をしておりました。そこでの上司(トップ)は、元SONYの中鉢良治理事長ですが、彼がしみじみこう仰っていたことを思い出します。「自分も研究者出身だが、研究者って、『これはりんごですか』と聞いても『みかんではありません』と答える人、多いよね。。。」確かに、研究者は「検証されていないことについて安易に書かない、言わない」ことが最も大事なので、そういうことは往々にしてあります。が、一般の人から尋ねられたら『こういう条件が揃えばりんごになる可能性がありますが、こういう条件下ではみかんにはならないということまでは検証されています。いずれにせよ、こういう方向での更なる研究が必要になります』くらいは言ってほしいなあ、というのも度々経験したことではあります。

 昔、ある作家が日本の航空会社の飛行機で「ワインは何がありますか」とキャビンクルーさんに尋ねたところ「赤と白がございます」と返答されて「そりゃねえだろ!」と憤慨した話を週刊誌か何かで読んだ記憶があります。確かに「青ワイン」とか「黒ワイン」が無いのは私でも知ってますが(あったりして・・・(汗))、相手によって「白はブルゴーニュ、赤はナパバレーがございます」とか、更には「白はシャブリで、シャトーマルゴーの2002年モノです」とかが期待されている場合もあるのだろうな、と思います(まあ、機内でそこまで期待するのはちょっとやりすぎだろうとも思いますが・・・。なお、私はワイン通では全然無いので、上記の例は完全に出鱈目・出まかせです。)。

 講演等をする際には、「相手が中学生だと思って話せ」という格言(?)がありますが、なかなかそこまでは難しいと思いつつ、「あんたの話、何だか全然わかんなかったよ」と言われないように精進したいものです。

第6回 2019.06.28

 止せばいいのに、頼まれると断るのが面倒なので色々な仕事をお引き受けしています。その中には大学で若い人に講義をする仕事、というのも含まれます。ある大学では、それこそ学部の1年生を対象として Introductory Environmental Studies(正式名称はもう少し長いですが)なんてのを講義してたりします。しかも英語で・・・。

 学部の1年生というのは、つい数ヶ月まで高校生だった訳で、まあ自分の40年近く前の姿を見ているのと同じようなものですが、これが我々の若い頃とだいぶ感覚が違うことを思い知らされます。依頼を受けた時に、日頃、瞬発力系の生き方をしている私も、珍しく何を講義するか長考しました。その時アタマに浮かんだのが、「まずは最近急速に話題になっている海洋プラスチック問題を採り上げよう」ということでした。多分、身近な環境問題として興味を持ってくれるのではないかと。

 まあ、教科書と呼べるものも無いので、色々な所から資料を引っ張り出します。字が沢山書いてあるものよりもビジュアルに訴えるものが講義では使いやすい訳で、そうなると、皆さんもおそらくお馴染みの「海亀に魚網がからみついている写真」「プラスチック製の綿棒にタツノオトシゴが絡み付いて浮遊している写真」「洗剤キャップを住処にするヤドカリの写真」等が登場してきます。それにもう1枚印象的だったのが、1955 年の Life誌上に掲載されたという、いかにもアメリカン物質文明を享受せんがごとき若夫婦と小さなお嬢さんが使い捨てのプラスチック容器を放り投げている写真で、おそらくこれを再掲載した National GeographicJune 2018)が付けたと思しき an American family celebrates the dawn of Throwaway Living, thanks in part to disposable plastics というキャプションがあります。

 たかだか60年程度昔なだけなのに、我々の先達は、よもや投棄されたプラスチックが海洋に流出して色々な問題を発生させているとは想像もしなかった訳です。学生に、「産業界による対応策の事例を集めてそれを評価しなさい」という課題を出してみると、まあ「評価」のところは所詮高校を出たばかりという感は否めませんが、「事例収集」では色々な事案を教えてくれます。ご承知のとおり、海洋への排出量の多い上位国はアジア諸国ばかりですが、どこでも大きな話題になっていて流通・外食産業を中心に色々な試みがなされているようです。例えばベトナムのスーパーでは、レジ袋の代わりに「バナナの葉」が包装に使われている(というか、バナナの葉に戻した、ということだと思いますが)等。

 私はどうしても「既に捨てたものは回収して燃やすしか無いけれど、これから使う新しいモノは生分解性(特に海洋分解性)プラスチック製かバイオ原料素材にするしかないよなあ」と思ってしまいますが、所変われば品変わる、ということもよく分かります。今の学生は「環境コンシャス」でとてもこのような話題によく喰いついて来ます。これまで私が講義で話したのは、奈良の大仏建立と環境問題、産業起源の公害の代表例としての水俣病、アラル海の消滅と国土開発、それに地球温暖化とエネルギー消費の問題等ですが、これからは資源の希少性と環境問題、途上国の経済開発と環境保全等についても話そうと考えています。学生たちの反応がまた楽しみです。

第5回 2019.06.20

 さて、梅雨真っ只中ですが、冷たい雨が降ったり、好天に恵まれたりという気まぐれな天候の中、皆さんお元気に過ごされているでしょうか。

 私や当事務所を含め、アフリカ関係の仕事をしている人たちにとっては、今年は何と言ってもTICAD77th Tokyo International Conference on African Development)~アフリカ開発会議~が横浜で828日~30日に開催されますから、まあ夏休みはなかなか厳しいところです。

 先々週、モーリシャスの経済開発庁(EDB)から2人の職員が来日し、当方で「デレゲート・プログラム」を主催しました。65日にJETROと共催で開催したセミナーには、主として民間企業から約100名のビジネスパーソンに参加いただき、モーリシャスの投資・ビジネス機会や最新の投資環境について紹介が行われました。(http://www.unido.or.jp/outcome/seminars_events/7298

 モーリシャスは、AUに加盟しているインド洋上の島国です。人口は120万人程度。かつては砂糖や繊維製品の生産で経済開発を行っていましたが、寧ろ、現在では、ICTや金融セクターをキーにした「(大陸)アフリカへのゲートウェイ」としての性格を強めようとしているのが最大の特徴です。デレゲート・プログラムを終了して彼らとインド料理屋で打ち上げをやっている間にも色々な意見交換を行いましたが(二人ともインド系でした)、彼らが「物理的にモーリシャスに人が来なくても、ICTも金融のネットワークも、EUや米国とのFTAもあるから、色々なビジネスが展開可能だ。この地政学的な位置を逃すのは大きな損失だ」と言っていたのが印象的でした。

 UNIDOは、「開発途上国の経済が発展せず貧困が放置されるのは、その産業構造に問題があるからだ。一次産品に依存するのではなく、それに付加価値を付ける工業振興が重要だ」という問題意識で設立された国際機関ですので、どうしても、我々もこれまでは製造業の投資促進を最重点としてやってきたのですが、確かにモーリシャスの最大の「経営資源」は何かと言えば、治安や経済運営指標の良さに加えて「地政学的な位置」なんですね。それを改めて実感した1週間でした。

 さて、モーリシャスは、8月から東京にEDBの事務所を開設するべく準備を進めています。JETROさんが入っているビルで仕事をするそうですから、アクセス抜群ですね。この開設に当たってJETROさんと我々の事務所の担当者が色々サポートをしています。おそらくTICAD7に併せて同国の首脳がお見えになるでしょうから、そこで「モーリシャス経済開発庁、JETROUNIDO東京事務所の triangle formation で賑々しく Launch が出来るとイイね!」というのが私たちの合言葉になっています。日程が決まったら、皆さんにもご案内します。

第4回 2019.06.13

 皆さんこんにちは。たまには、仕事と少し離れた話題も書いてみたいと思います。

 日頃、色々な会合や打ち合わせに出る際に、タクシーに乗る機会は結構多い方だと思います。タクシーの中でディスプレイを見ていると、色々な新しいサービスが出現していることに気づきます。最近多いのが、中途採用などのリクルーティングや人事評価に関するICT系サービス。どこでも事情は同じと見え、「どうしたら自社にピッタリの優秀な人材を集められるか?」「どうしたら従業員からの不満が出ず、かつ適切なインセンティブを付与できるような人事評価ができるか?」といったことをICTシステムで解決しようというサービスです。

 UNIDOでも、色々な機会に職員、アシスタント、インターンの募集をします。国際機関で開発途上国の工業化のために働きたいと考えている人はこんなに多いのか、と実感する瞬間です。中には物凄い経験と実績をお持ちの方が応募してこられることも少なくありません。何度かの面接(リアルでやることも、遠隔地の方であればオンラインでやることもありますが)を経て決まっていく訳ですが、その過程では、断腸の思いでお断りせざるを得ない場合もあります。何とかして、当事務所でなくとも他に適当なお仕事を紹介できないかと悩むことも度々です。

 また、勿論、当事務所の採用告知に応じて応募される方には優秀な男性も多いですが、実はかなりの場合、極めて優秀な、しかもその時点では決まった職業をお持ちでない女性が沢山応募してこられます。そういう状況を見るたびに「日本は12千万人というけれど、実際は半分の6千万人で戦っているのと同じじゃないか?」と思ってしまいます。私は、科学技術(理工系の研究開発)の仕事に関わっていた時期もかなり長いのですが、その時から、「女性の研究者をいかに増やすか?」というのは大きな課題でした。今も至るところでこの課題はとても解決したとは言えない状況ですが・・・。

 ジェンダーの問題ばかりではありません。上述のとおり、日本の人口は12千万人ですが、アメリカは(この数年はかなり状況に変化がありますが)世界中から優秀で野心のある人間を受け入れ、活躍させます。極端に言えば、日米では6千万人vs76億人という「母集団」の差があり、数字だけ見れば人口比の1:2どころではなく、むしろ1:100に近いわけです。これがイノベーションの世界での日米のプレゼンスの違いを生んでいる要因のひとつではないかと思います。

 30年近く以前、アメリカに留学していた時代、クラスメイトから「この国では、もはやchairmanfiremanombudsman、といった言葉は少なくとも社会的には存在しない。chairpersonfirepersonombudsperson だ」と聞き、珍しくピンと来た私は「へ~、じゃあ俺たちはもはやhumanではなく huperson なのだな?」 と聞き返してウケを狙いましたが、どうも日本の状況はそういう冗談の言える段階ではなさそうです。(あ、凄く真面目な話になってしまった・・・。)

第3回 2019.06.06

 皆さんこんにちは。5月の下旬は凄く暑い日が続きましたが、6月に入ってちょっと涼しい日が続いています。まあ、入梅も間近ということだと思います。

 先週は、エチオピアの貿易産業大臣が訪日し、私は彼女の「産業政策スタディ・ツアー」の企画者兼添乗員ということでバタバタとした数日間を送りました。ご存知の方も多いと思いますが、同国は「東アフリカの軽工業のハブ」となり、2020年代半ばに中所得国の仲間入りをすることを目指しています。UNIDOとしても、PCPProgramme for Country Partnership)というプログラムの対象国としていち早く指定し、産業政策面での支援を開始しています。

 まあ、言ってみれば「21世紀の Look East 政策」のキックオフとでも呼べるようなスタディ・ツアーにしたいと考え、中小企業金融、中小企業の技術開発支援、中小企業(ものづくり)の現場視察と地方自治体の支援策、日本の技術協力(エチオピアにはEthiopian KAIZEN Instituteという国立機関もあります)、輸出促進といった分野の関係機関をお訪ねし、様々なお話をお伺いすることができました。ショートノーティスであったにも拘わらず、各機関の皆様には大変お世話になりました。

 初日の午前中は、私が「日本の産業政策の歴史と全体像」ということで大変雑駁な説明を行ったのですが、その場で印象的だったのが、「日本政府は、どのように産業界と意思疎通を図っているのか?」ということと、「(政策形成のプロセスにおける)審議会というものの運営は、誰がどう行っているのか? なぜそういうやり方で政策論を議論しているのか?」という2点に議論が集中したことでした。

 前者は、現代の日本では少しクラシック過ぎて産業構造の変化に対応できない部分もあるとの指摘があるのを承知の上で、「業界団体と(省庁の)業界所管部局」の関係や、「業界内の競争と協調」の要素を、また、後者では、これも一概には括れないものの、一体どういう課題がある時に、どういうメンバーを審議会委員として選定し、事務局はどう論点を設定するか、を例を交えつつ説明しました。「産業」の集積が小さいエチオピアでは、そもそも幅広い見地から産業界が政策提言をする、ということをイメージしにくいのだな、と感じました。

 また、大田区の中小企業訪問では、従業員数人規模の企業がどうやって人材を育成し、自動車部品や少量多品種型の機械部品を作っているかを間近で見る機会を得て、ご一行はかなり興味を持たれた様子でした。勿論、ASEAN諸国に日本企業が進出したのと比べれば、エチオピアはそれを取り巻く周辺状況も大きく異なりますので、同じスタイルの産業政策がそのまま有効ということは無いでしょう。が、産業振興を考える上で現場は何より重要な筈。自称・工場見学マニアの私としても「日本の現場を見て何も感じない筈はない」ということを改めて再認識した日でもありました。本件、今後もフォローアップしていくつもりです。

第2回 2019.05.29

 皆さん、こんにちは。このメルマガは、毎週発出することを目標としようと思っています。お暇な方はお付き合い下さい。

 さて、UNIDO東京事務所は、正確には「東京投資・技術移転促進事務所」という名称です。ひたすら途上国・新興国に日本から投資促進、技術移転促進を行うのがミッションです。途上国の産業発展といって、まず最初に思いつくのは労働集約的な産業、だいたいにおいて繊維産業(繊維産業の中にも資本集約的なもの、ハイテクが盛り込まれたものが数多くあるのはこの際置いておいて)です。これは、我々が小学生時代の社会科の授業で習った富岡製糸場や、信州の蚕糸・生糸紡績工場の記憶が強烈だからかも知れません。また、私が経済産業省出身だからかも知れません(ここにも省庁縦割りの弊害が・・・)。

 ところが、UNIDOに入って途上国の人たちと話をすると、最初にターゲットとして上がってくる産業(製造業)というのは、食品加工関係が殆どなのですね。考えてみるとアタリマエかも知れません。人間は誰しも「メシ喰わずには生きていられない」からですね。更に言えば、流通・物流インフラの発展していない国では、地場で入手できる農産品・水産品を加工して食品の保存性を良くする、というのは理にもかなっているし、それが輸出品として外貨を生むチャンスに繋がれば、これは貧困対策としても経済政策としても有効だからですね。

 今年の4月1日から、それまで運営してきた「環境技術データベース(ETDB)」を「STePP(サステナブル技術普及プラットフォーム)」と改称するとともに、新たにアグリビジネスや保健衛生分野の技術も対象とすることとしたのも、こういうことが大きな理由です。

 とは言え、日本の産業界の方々に、アフリカ等で食品加工産業分野に進出しませんか、といきなり持ちかけるのも結構大変な話です。まず食い物というのはその土地の文化・風土に大きく関係します。狭い日本でさえ、長崎県出身の私は「魚の煮付け」と言えばまずアラカブ(カサゴですね。今や高級魚になりましたが・・・)のことを考えますが、瀬戸内出身の妻が思いつくのはメバルです。

 しかし一方で、食品関係のビジネスのいいところは、まず「日銭が入る」ことですね。ということは、キャッシュフローの点では有利な筈です。そして、日本は世界に誇る「食品加工機械」の発達した国です。おそらく食材の種類も調理法のバリエーションも多いからでしょうね。また、衛生管理や鮮度管理のノウハウも発達しています。

 今日、「アフリカと日本の食卓を結ぶ」のは「モーリタニアの蛸」くらいしかありませんが、日本式のコメの栽培も進みつつありますし、アフリカの食材はとても豊かです。そんなこんなで、今風に言えば「アグリビジネス(勿論、食品加工だけでなく上流の農業用資材等も含んでいます)」の分野でも、アフリカをはじめとする開発途上国での日本企業のビジネスチャンスを狙っているところです。

第1回 2019.05.21

 皆さんこんにちは。今日は、TICAD-7(第7回・アフリカ開発会議)をほぼ3ヵ月後に控えて、UNIDO東京事務所が日々取り組んでいる開発途上国・新興国への投資促進の仕事をやりながら感じることを書いてみたいと思います。

 最近、色々なところで「日本企業が途上国ビジネスに乗り出すに際して、リスクを取る能力が低下しているのではないか?」という声を聞きます。先日も、日経新聞社・日経BP社主催の「TICAD7プレビューシンポジウム」に聴衆の一人として参加しましたら、JETROの佐々木理事長が冒頭のご挨拶でそうい趣旨のことを仰っていました。

 私たちのオフィスでは、在京の大使館の方々とも頻繁に交流します。アフリカ各国の在京大使の方々が口々に仰るのは、「日本企業が来て(進出して)くれるのを待っているのに、“遠い”とか“リスクが・・・”という声が多く、いつまでたっても進展しない」ということです。

 また、日本政府でも様々な支援策が講じられています。上記のシンポジウムでは、世耕経済産業大臣が基調講演をされましたが、大臣が打ち出した3点の支援策((1)日本貿易保険(NEXI)が国際金融機関と協調して輸入費用やプロジェクト費用の100%をカバーする。(2)JETROで日本企業とアフリカのスタートアップのマッチング支援を行う。(3)アフリカでの人材育成を進めるためにAOTS(海外技術者研修協会)が第3国を活用した研修を支援する)は、日本企業の「海外事業(この場合にはアフリカ)のリスク」を低減するために日本企業の弱い点を支援するという視点だと感じました。更に、JICAの中小企業支援策等についても、当方のパートナー企業で活用されている方々も多いと承知しています。

 勿論、私たちUNIDOも工夫を重ねています。開発途上国から投資促進機関(IPA)の実務担当者を招いてセミナーや個別企業とのミーティングを行うデレゲート・プログラムでは、そのフォローアップを強化するように努めています。また、アフリカ3か国(アルジェリア、エチオピア、モザンビーク)に配置し、日本企業の現地進出の際の許認可手続きや現地パートナー探しに奔走しているアフリカ・アドバイザーについても現在、4人目(西部仏語圏担当)を近日中にセネガルに配置する予定で人選を急いでいます。

 これからも更に色々な工夫を行っていきたいと思います。皆様宜しくお願いします。